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黒船サッカーパークへようこそ!  作者: K砂尾
シーズン3(2021)

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171/173

第162話 関西Div2第12節②

(簡易人物メモ)

田村泰輝(初): 洲本淡路FC監督

伊東誠也(初): 洲本淡路FCエース

大嶺(初): 洲本淡路FCキャプテン

栗田靖: 南紀ウメスタSC監督

下村健志: 南紀ウメスタSCヘッドコーチ

※選手は割愛


ーーーーーーーーーー

 9月は関西2部リーグをはじめ、社会人サッカーのシーズン佳境である。ちなみに現在行われている南紀ウメスタSC対守山Stilの試合が、黒船サッカーパークにおける2021年シーズンのホーム最終戦だ。


 南紀ウメスタSCは、アウェーで守山Stilに完敗した5月の経験を踏まえ、彼らの代名詞であるハイプレスを突破するためにDFラインから始まるビルドアップ(攻撃の組み立て)を強化し、アクティブに勝ち点3を奪いに行くサッカーに挑戦した。


 序盤は十分に対抗できていたものの、徐々に守山Stilのプレスにウメスタは押し込まれ始め、前半の終わり頃には防戦一方となっていた。それでも守護神であるGK久保田を中心とした中央の堅守によって、なんとかスコアは0-0のまま進行していた。


 

「やっぱめんどくせえな、あいつ…」



 中央のメインスタンドで試合を観戦していた、リーグ戦で首位を走る洲本淡路FCのナンバー10、伊東誠也いとうせいやが呟いた。


「あいつ」というのは、守山Stilの中谷晴人なかたにはるとのことだろう。ピッチの中央に君臨する王様の存在によって、ウメスタは攻撃の起点すら作れない状況が続いていた。


 伊東の隣に座る洲本淡路FCキャプテンの大嶺おおみねがさらにその隣の同クラブ監督、田村泰輝たむらたいきに話しかける。



「ウメスタは見事にハマってますね」


「ああ、実際守山Stilのハイプレスは見事だよ。3トップにはマンマークをつけ、特にセンターのカンソジュンは二人がかりだ。そうするとウメスタの攻撃は中盤を経由せざるを得ない。そこを中谷が押さえ込んでいるわけだから、あれでは身動きが取れなくなる。…彼らも昇格するつもりだ。おそらく対策は立ててきたんだろうが、やはりという感じだな」



 洲本淡路FCは確実な昇格を成し遂げるためにライバルとなるチームは徹底的に研究を行ってきた。南紀ウメスタSCに関しては当初ノーマークであったが、後半の勢いを見てターゲットに急浮上したのだ。そして、彼らの弱点は中盤であるというのが、洲本淡路の見立てであった。



「ウメスタのように両ウィングがワイドに開く4-3-3は強力な中盤が不可欠だ。中盤の主導権を奪われた状態では、相手が守山Stilでなくても同じような状況に陥る。…大嶺、おまえ指導者目指してるんだろ。こういう時はどうすればいいと思う?」


「…真ん中で起点を作れないならサイドで作るしかない。ウィングを下げますね」



 前線に3枚いてもボールが来なければその攻撃力が発揮されることはない。まずは攻撃力に目を瞑ってもボールを運べるルートを開拓すべきだと大嶺は考えた。しかし伊東がすぐに口を挟む。



「今のままじゃあ、だめだろ…」


「だめ?」


「そこだけ変えるなら一緒だぜ、大嶺さん。むしろウィングだけ下げるなら、先に前へ蹴ってセンターに当てたほうがまだいい」


「伊東の言う通りだ、大嶺。ウィングが下がっても、その先はセンターフォワードしかいない。ウィングを起点とするなら他の選手がスペースに走れなければならない。…例えばボランチ」



 今のウメスタのボランチはそういうタイプ、いわゆるボックストゥボックスの選手がいない。



「中城は運動量が少ない。大西は運動量はあるが、攻撃の場面では活かされない。三瀬はそもそも4-3-3の真ん中に置くような選手じゃない。うちで言うとまさに大嶺、おまえみたいな選手がいればな」


「だとすると…」



 大嶺の言葉の続きを察したように田村が頷いた。



「要はシステムと選手が合っていないんだ。彼らのシステムにおける中盤にトップ下を本職とする選手を置いても役割はこなせない。もしかしたら、あえてそういう環境において、選手の成長を促してるのかもしれないが……正直、守山Stilの強みとウメスタの弱みが露骨に噛み合ってしまっている」



 やはりサッカーは奥が深くておもしろいと、大嶺は感心しながら監督である田村の言葉に耳を傾けつつ、安堵していた。


 シーズン終了時に1位と2位のチームが関西1部リーグへの昇格切符を手にする。現在首位の洲本淡路からすると、守山Stil、南紀ウメスタ、高砂サントスとの四つ巴の状況は居心地が悪い。


 守山Stilが直接対決で南紀ウメスタを落としてくれるのであれば、勝ち点としては洲本淡路と守山Stilが抜け出す形となり、3位以下に落ちるリスクは明らかに少なくなるのである。


 しかし、そんな大嶺の腹の内は露知らず、伊東は田村の解説に異論を唱えた。



「そんな頭の中で計算して結果が分かるんだったら、試合なんてやる意味ねえよ監督。実際にスコアは0-0なんだぜ?」


「ああ、ウメスタはよく持ち堪えていると思う」


「いいや、ちがうね…。負けに向かっているのは守山Stilの方だと思うぜ」


「え、な、なんでだよ?」


「まぁ、もういいじゃねえか大嶺さん。こんなチグハグなシステム使ってるウメスタも、そんな奴ら相手に決めれない守山も、どっちもザコだろ。それが分かっただけでも、金払ってまで試合見にきた意味はあったさ」



 伊東はいつも自信なのか油断なのかわからない言い回しをする。しかしこの男が今シーズン関西2部リーグで圧倒的なスタッツを残す、紛れもない洲本淡路FCのエースなのである。



**********



 ハーフタイム、南紀ウメスタSCのロッカールームで放たれた一言に、その場にいた選手誰もが耳を疑った。



「このままいく!?」



 いの一番に声を上げたのは、およそ2ヶ月ぶりにベンチメンバーに名を連ねた白井慶太しらいけいたである。


 栗田は自信たっぷりに「おう」と笑みを浮かべた。後半は選手交代なし、先発メンバーそのまま戦術もシステムも変えないというのが、前半45分を踏まえた栗田の結論だった。



「試合見てました!?」


「ああ、少なくとも途中で勝手にアップし始めたおまえよりは見てた。怪我明けなのに余計なことするんじゃねえよ」



 痛いところを突かれた白井は言い淀む。いてもたってもいられず身体を動かしてしまった。それくらいフラストレーションの溜まる前半であった。


 栗田の横に立つヘッドコーチの下村もフォローできなかった。栗田の判断の意図を知らされていないからである。


 明らかなのは、栗田がこの試合のポイントと話していた、ハイプレスの突破と先制点。このふたつのポイントに少しも近づいていないということだけだ。


 むしろスコアが0-0で折り返せたことは奇跡である。決定的なチャンスが少なくとも2回はあったが、レフェリーの笛とゴールキーパーのファインセーブによって救われていた。


 栗田は前半の功労者であるGK久保田の背中を叩いて労いながら、ベンチに項垂れて肩を上下させている三瀬学人みせがくとの前に立った。



「どうした三瀬、いつもの勢いがねえな?」


「…私は普段通りですよ」



 普段通りでないことは一目瞭然であったが、本人はあくまでも平静を装う。


 動揺しているのだろうかと下村は懸念した。これまでもパスの通らない試合、フリーキックがハマらない試合、フィジカルで倒された試合、三瀬が輝かない試合はいくらでもあった。しかしそれらすべては、あくまでも彼が前を向いてチャレンジした結果であり、高卒2年目のサッカー選手としては、あるべきひたむきな姿である。


 しかし今日の試合に関してはこれまでとはまったく様子が違う。後ろを向いてのプレイ自体が非常に少ない彼の顔を、ディフェンスの選手達があんなにも正面から見たのはおそらく初めてだろう。


 マッチアップする中谷を相手に三瀬はそもそも挑んでいなかった。中谷が近づいてくると、最低限のフィジカルコンタクトはあったが、すぐにボールを離して逃げていた。それほどまでに格の違う相手ということなのかもしれない。


 しかし下村は、たとえ通じなかったとしてもぶつかりに行くべきだと強く感じていた。相対する相手との差を直接感じずに、その後の成長はないはずだ。


 そんな下村の心境をまたしても栗田が裏切る。



「三瀬、おまえはよくやってる。そのままでいいぞ」


「え…?」


「えっ?」



 下村は思わず声を上げたが、当人の三瀬もその予想しない声掛けに思わず顔を上げた。逆に栗田が首を傾げた。



「どうした? 前半のプレイにストレスは感じていない、いつも通り普通にやってるってことでいいんだよな?」


「…そ、そう、なりますね」


「おう、だからそれでいい。後半も前半と同じように頼むぜ」


「はぁ…」



 下村がさすがに声を上げずにはいられないと一歩踏み出す。しかし口を開く前に、栗田が両手を大きく叩いて全員の注目を集めた。



「いいか、繰り返すがこのままの形でいい。後半…俺が必ず全員にわかるように合図を送るし、交代カードは切る。それまではこのままだ、いいな!」


「とりあえず俺を信じろーーーって話っすね」


「おう」



 キャプテンマークを巻いた畑中哲也はたなかてつやが頷いた。


 今日の彼の言葉にどんな狙いが隠されているのか正直分からなかったが、彼自身のことは信じられる。選手兼コーチとして曲がりなりにも今シーズンを通じて栗田の横で議論してきた畑中が痛感しているのは、彼の昇格に対する熱意は間違いなく本物だということだ。


 畑中は選手達を集めて檄を飛ばす。監督の判断を信じるなら、せめてそれを選手達に伝えるのが今の自分の仕事だろうと判断した。






つづく。

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