第四話 しばしの休息
「うーん、ほのおひくほいしいですね」
(うーん、このお肉美味しいですね)
戦闘狼の肉を頬張りながら喋っているのは記憶を失った歌姫セラ。
しかし、この光景を前に歌姫と思う人はいないだろう。
『可愛い少女が肉を頬張っている』
その光景だけで違和感を覚えるがそれだけではない。
その身体のどこにそれだけの量が入るのかと疑問に思うくらいたくさん食べる。
もし、この光景を目の当たりにしたならばそれに気になる者の方が多いはずだ。
フィルが倒した戦闘狼は十体を超える。
しかし、フィルの能力の都合上、全てが全て食材として扱えるまま残っているとは限らない。
それでも、食材としての肉の量は軽く五十人分くらいはあるだろう。
フィルもどちらかと言えば食べる方だが、いくら二人で食べているとは言えその残量は半分を切っている点は異常だろう。
まして、男二人でなく男女でなのだから。
「いったいどんだけ食べるんだ?」
「ぜんふへす」
(全部です)
「……ダメに決まってるだろ! 食材としても売るんだから!」
「えっ? わはひのたへじゃなはったんだふか?」
(えっ? 私の為じゃなかったんですか?)
「違うに決まってだろ! ……こうしてやる!」
「い、いたひでふ! ほうりょくはんたひでふ!」
(い、いたいです! 暴力反対です!)
セラはフィルに頬を引っ張られながらも肉は離さず出さず食べながら必死に抵抗するのだった。
そして、青空の下、先ほどまで戦闘があったと思えないような、少年が少女の頬を引っ張るという山奥には似つかわしくない光景が広がっている。
「こうでもしないと分からないだろ!」
「わはってひまふよ! じょーはんでふよ!」
(分かってますよ! 冗談ですよ)
二人は至って真面目……特にフィルは怒っているのだが、見る人が見たら少しイチャイチャしている男女に見えない事もないだろう。
「だったらいい加減食べるのをやめろ! ブタになるぞ!」
「はひ! でほ、わはひはふたではなひでふ」
(はい! でも、私はブタではないです)
「ブタだと言ってるんじゃない! たとえ話だ!」
こうして二人の夫婦漫才のような光景はしばらく続くのであった。




