文化祭
次の日、僕は静かに目覚めた。うつろいだ視界で隣を見ると、既に誰か起きていた。目をこすってみると、マリがスマホをいじっていた。目覚めた僕に気づいて、さっとスマホの画面を隠して、いつものポーカーフェイスでおはようと挨拶したので、僕もおはようと返してやった。
マウラはだらしなく仰向けで肘掛けを枕に僕の風船を隣に起き、スヤスヤ眠っていた。またミワのマウラに覆いかぶさるようにうつぶせで寝ている姿は、まるで兄と妹だった。
服、着ないのか?
あ、確かにね。
僕はマリとともに服に着替え、2人が仲良くくっついて寝ているのを静かに見守った。マリも眼鏡をかければ、いつもの金沢さんだった。しばらくして、ミワも起き出して、いつもの調子で、学校へ行く支度をした。僕とミワは、部活の関係で、早めに出るから、獣娘を置き去りにした。ただこの空間にいても仕方ないマリも同じタイミングでマンションをあとにした。
今日もいつもと変わらないが、ただ一つ、変わったとすれば、マリが裸足でいることだ。曰く、マウラが上履きを持ち帰ってしまったかもしれないというのだ。でも、あの新しいエデンを知った今では、僕が上履きを履かない限り、ずっと裸足のままでいてくれると言うので、嬉しく感じた。しかし、廃校の噂が広がると同時期に裸足の子が増えたので、廃校への抗議活動の一環だとか、わけの分からない都市伝説が流布した。ただ、それ以上のことはなく、僕、マウラ、ミワ、マリ、奏は、裸足で学校を歩き回るだけだった。
文化祭の準備も始まったが、学校主催のお祭りは楽しくもない。僕はただ裸足でロッカーの上に上がり、適当に飾り付けをするのみだった。委員長のマリは、その権限を持つかわりに、裸足で、設営の調整やら、忙しそうにしていたので、不憫に思えたが、あの大量のカメラで学生たちを監視し続けた贖罪としては、十分に軽いものだった。ちなみに彼女曰く、一通りカメラを設置した場所を見たが、全部溶けて消えてしまっていたそうだ。それを聞いた僕は、どこかホッとしたような気持ちが出てきた。
準備の合間を縫って、奏を探し回っていると、渡り廊下を歩いているのを見かけたので、急いで走って捕まえた。相変わらず裸足だった。
よぅ、奏ちゃん。
あぁどうも。サボりですか?
いやぁ、たぶん文化祭で、自分の曲を披露するんだろうなぁと思ったんだけどいつやるんだ?
これ、パンフレットです。
そこには、自分のライブがいつ行われるのか詳細に記載してあった。
まぁ雑音ですが、聞いてくれたらチップくださいね。
あぁ楽しみにしてる。
また奏は走り去ってしまった。それにしても、毎日毎日飽きもせず、同じことを続けてきたんだもんなぁ。なんとなく、純粋に曲を聴きたいと言うよりは、これまでの頑張りを見なければならないという、使命を感じたので、この時刻、場所をハッキリと記憶した。
文化祭当日、マウラは学校を休むというもんだから、無理やり連れ出した。
なんだよ、あんなガキの遊びに興味ないって!
僕も似たような気持ちだが、一つだけ見せたいものがあるんだよ。
僕は、マウラを引き連れて、グラウンド近くのライブ会場のような場所へ向かった。ちょうど、奏が裸足で立ったころだった。
ん?あの子は。
マウラが見たことのある顔にハッとした。それと同時に、煩いだけのギターの不協和音に、歌にならないポエム。リズム感もつかめないので、周りのみんなもどう盛り上がればいいか分からない様子だった。そこへマウラが、うぉぉぉぉぁ!!!と大きな声で叫んだので、僕もカナデー!!!愛してるぞー!!!と叫んだ。その曲はいつの間にか終わっていた。しかし、印象に残る歌詞が一つだけあった。たった一つ結ばれる絆は永遠だと。
僕は片付けをしている、奏に会いに行った。奏はうつむいて、まあこんなもんっすよね。とつぶやくが、僕は、続ければいつかきっといいことはあるよ、とだけ返したら妙に納得した顔だった。僕は、彼女に千円札を渡してやった。
とりあえずマウラはそれを見届けてさっさと帰ってしまったが、実は僕も文化祭という催しは苦手なので、僕もマウラについていくことにした。




