勇気
僕は朝早く目覚め、裸足のまま玄関を出た。なるべく人が少ない時間を狙って電車に乗るためだ。昨日よりは人の視線もだいぶ慣れた。駅に着くと、構内を早足で抜け、自転車で乗り去った。人のいない畑の道まで来てしまえばこっちのもの。裸足である喜びを、吹き抜ける風が伝えてくれた。
一旦マウラのマンションへ行き、コンコンと何度もノックしても、開けれもらえない。おそらく今頃グーグーいびきをかいてることだろうな。マンションからたびたび人がすれ違うたびに、浮き足立つような羞恥心がこみ上げる。どれだけ待っても開かないこの扉の前にいるのが、とてももどかしかった。このままでは埒が明かないので、いったん駐輪場まで戻り、メッセージアプリで電話をかけてみることにする。そこから流れるのは、現在通信ができないという機械的な案内のみだった。肝心な時に役に立たないマウラに、いら立ちを覚えつつも辛抱強く待った。
しばらくたったあとに、もう一度6回ノックしてしばし待つとガチャリと鍵が開いたので、間髪入れずにドアを開けてしまったがために、マウラが驚いた顔で、玄関に足をつっかけて転んでしまった。
あぁすまない。
全く、一瞬襲われるかと思ったよ。
それにしても、マウラのみっともなく裸で倒れているのを見るのが、妙に懐かしく思えた。マウラは立ち上がり、のそのそとリビングへ戻りかけたので、もう言っちゃうよとだけ言い残して、自分のローファーを履いていった。なんとなく、文明が進んだような、進化したような気がした。今の自分なら何のためらいもなくどこへでも行ける。その幸せをこのような形で得たのは不本意だった。とりあえず朝練には間に合いそうだった。いつものように、昇降口から入り、ミワの下駄箱を覗くと、ちゃんとローファーが入っていたので安心した。
部室へ向かうと、何やらミワが同学年の部員たちと揉めている様子だった。どうしたんだ?と割ってはいると、最近裸足でいるのはどうなんだとか、自分に影響を受けてるのか、とかくだらない内容だった。要は口説いていたのだ。ミワの困惑して弁明している様子に、僕が裸足でいるなんて人の勝手じゃないか。自分らも剣道のときは裸足だろう。そう言ってミワから意識を逸らそうとした。レギュラーで体格もいい相手なので、僕は内心何を言われるのか不安だったが、あっさり引いてくれた。暗に僕とミワの関係を理解しているのだろうか。ミワは、一瞬だけ僕の手を優しく握って、竹刀を取りに行った。




