2人の足
マウラに今日は帰ると断った。ミワも帰るというので、マウラの残念そうな顔をよそに、廊下へ向かった。ミワは裸足で玄関を出ようとするので、僕は静止した。
ちょっと待ってくれ。僕のローファー履いていきなよ。
そしたらムッくんが裸足になっちゃうじゃん!
僕は構わないよ。でも君にはそういうことはもうやめてほしいんだ。
僕の真剣な眼差しに、ミワは何か心を打たれたように、目を潤わせる。そして、震えた声でつぶやいた。
じゃあ今日だけ一緒に裸足で行ったら、明日ちゃんとローファー履いてくる。
僕はその目の奥に代えがたい欲求を感じたので、一緒に裸足で出た。
一緒ならドキドキしないよね。
あぁそうだな。
僕は裸足でペダルを漕ぐ。その後をミワがついてくる。そうすれば、誰かとすれ違っても、僕がその罪を引き受けることができる。それに、ミワも裸足だから、むしろ温かく包まれるような感覚のために恥ずかしさを感じない。それは、駅前の人通りが増える場所でもそうだった。
駅について、一旦別れたが、再び階段前から体を密着させながら手を繋ぎ、お互いに裸足で階段を登る。周りに訝しげにこちらを見られたり、チンピラに遠くから茶化されるが、気にせず、お互いが一歩一歩裸足で、構内を抜けていった。
ホームの一番端で手を繋ぎ、電車が来るのを待つ。その様子を見かねた人が駅員を呼び出してきた。
君たちなんで裸足なんだ。まさか自殺じゃないだろうな。
そんなことするわけないですよ。
僕はこの駅員をたしなめた。しかし、彼は何をするか分からない学生を放ってはおけず、呆れたように僕たちを監視し続けた。ミワの足の指先をぴーんと張って緊張した姿がそうした雰囲気を一層強めているのだ。しばらくこの状態が続いた後に、列車到着の合図がなった。この駅員は、僕たちの前に立ちはだかり、何をしても抑えられるように見張った。そのときに、忙しいってのによぉという愚痴が小声で聞こえてきたので、裸足でいるのも相まって、申し訳ない気持ちが出てきた。
電車もホームに入線したので、駅員は安心したのか、明日はちゃんと靴履いてね、と吐き捨て去っていった。僕たちは開いたドアに迷いなく裸足で上がり込んだ。人も多く、角には人も張り付いていたので、電車の真ん中に立ち、つり革につかまった。ドアが閉まって電車が走り出せば、ここは脱出のできない空間だ。周りにジロジロ見られたり、カメラを向けられた。男女が裸足という珍しさに、僕は犯す方から犯される方へと変わったのだ。むしろ一人のほうが良かったのだと今更ながら気づいたが、どうすることもできず、ミワの手をより強く握り締めた。自分の濡れ場を見た者にフェチズムを聞き出すという重い役をミワに担わせてしまったことへの贖罪でもあるのだと自分に言い聞かせたりもした。この空間にいる時間が、ずぅっと引き延ばされて無限地獄だった。ただ、人の視線に耐え続けた。
気づけば自分の降りる駅だった。ミワには気をつけてねと言い、別れた。ミワはあと一駅分耐えなければならないのか。それにしても、今は裸足でいることが心地よく思えた。足に直に涼しい風が当たり、しがらみから解放されたような気分を味わい、ペタペタとホームを堂々と歩いた。




