金沢の裏
辺りも暗くなりかけていたので、金沢に帰ろうかと誘った。
昇降口で、久しぶりに金沢の裸足の姿を見た。群れてほんのり赤く指先を染めていた足を自分のローファに突っ込んだ。その足はローファにぺったりフィットしていた。加えてメガネ姿におかっぱ頭という組み合わせは昭和の美少女を想起させる。僕もいろんなところを歩き回った汚い足の裏を払ってから自分のローファーに突っ込んだ。
方向が同じなので、薄暗い宵闇の中を並んで自転車を押していった。
ムッくん、なんか女性慣れしたよね。
まぁね。僕にも色々あってね。
私、実はその色々が気になってるんだ。
そのポーカーフェイスの裏に、並々ならぬ欲求が見て取れた。もしかしたら彼女、強烈に変態的な欲求を内側に秘めているのかもしれない。
私ね、君が足立さんとセックスしてるの見たときびっくりしたんだよね。それに、なんで、裸で学校歩き回ってたんだろうって。
そこまで足立さんのことが気になるのか。
そうじゃないの。あなたがこの短期間に何が起こったのか、私はすべてを知りたい。
気持ちは分かるよ。でもそれを知ったら君はとんでもない衝撃を受けることになるかもしれないんだ。
それでも構わないの。
彼女の人の闇を暴きたいという欲求はとめどないもののように感じられた。たしかに彼女の知識欲はものすごい。マウラが直感的に問題を解くなら、金沢は大量の知識によって導き出されれる回答を書くタイプだ。もしかして、自ら集合知になりたいと思っているのだろうか?しかし、人間の複雑さ、社会の矛盾、自分でも自分のことがわからないことだってある。あのマウラが見せた静かな涙もそうだ。そんな性質のものを金沢は求めてしまっているのだ。そんなことはいくらカメラをつけて人を観察しても、分からないものは分からない。金沢はそのことに気付かないのだろうか?
金沢さん、やっぱり、もう少し考える時間が欲しいな。君の欲求ではあるが、どうしても僕は君にすべてを打ち明ける決心がつかない。
それでもいいよ。いい返事を期待してる。
久しぶりに見た笑顔だった。
金沢とは、改札を通った後に別れた。トイレに立ち寄ったあとホームに降りたが、金沢は反対側のホームの椅子に座っていたのを見かけた。ただ無表情で小説を読んでいた。しばらくするとホームの案内とともに反対側のホームに列車がやってきて、走り去ったときには誰もいなかった。




