夜明け
家においてあったママチャリで駅へ向かうも、終電がもう過ぎていた。しかし、どうしてもマウラのことが気がかりなので、この暗い夜道を自転車で向かうことにした。地域は同じなので、シャカリキ足を回せば電車で行ったときと同じくらいにはあのマンションへたどり着く。僕は迷いなく深夜の車の走らない車道上を全速力で漕いだ。夜空は明るく道を照らすが、感傷に浸る余裕もなかった。ただ無心で真っ平らな道路を駆け抜ける。ここまでものすごい勢いで駆け抜けると、マウラのことだとか、親だとか宿題だとか部活だとか就職だとか、全てどうでもよくなった。ただ、この風を切る心地よさだけが残った。もっと漕いで、もっと遠くまで走り抜けたい。その強い欲求が、僕の足を力強くした。しゃーっと坂道を駆け下り、急カーブを旋回し、砂利や草っぱらの道をガタガタと、タイヤのパンクや車体の故障など度外視で、走り抜ける。
開けた畑のなかのアスファルトの道まで来ると僕というエンジンも消耗しきって、慣性で自然に進むところまで進んで止まった。気がつけば月明かりや、夜風、空全体の星々の中で、ただぽつんと立つ僕だけがいた。僕は今、宇宙の中心にいる。そして、たった一人の宇宙の観測者として、全身でそのすべてを感じ取る。この体のほてりが落ち着くまで、僕はただそこにいた。
ふとマウラの顔が頭に浮かび、急がねばと、再び自転車を漕いだ。この道をまっすぐ行くと、点在する住宅と共に、建物が立ち並んでいるのが見えた。この右から2番目の建物にマウラがいる。僕はいつもの場所に自転車を停め、マウラのいる部屋の扉の前まで走り、儀式のごとくドアを六回叩く。間もなくガチャリと鍵が開く。ただ、しばらくたっても開かないので、自分から開くと、涼しい風がドアから吹いてくる。臭いもだいぶ収まっている。ドアの鍵を閉め、暗い廊下を歩き、リビングにはいると、ポツンとソファの上で、半袖に半ズボンを履いたマウラが膝を抱えて顔をうずめていた。この部屋も外気に比べかなり涼しく、いつものむさ苦しさはなかった。僕はマウラの横に腰掛ける。ただ何も話さずじっと、このままでいた。僕は優しくしばらく背中をさすっていると、こてんと寝ころんで、足をひざに乗せてきた。暗くて良くは見えなかったが、大きいマウラの足の裏が実感できた。揉んでやると指でギュッとつかんでくるので、その仕草に勃ってしまったが、それだけだった。ただこの暗い空間で静かに時を過ごした。
時も周り、透明で鮮やかな青のコントラストが、部屋を少しずつ明るくしていった。




