孤独の夜
あの方はマウラの母親だったのだろう。間が悪かったのか。遅かれ早かれこの結果に落ち着くのは目に見えたのか。僕にはわからない。図書館は静かで涼しい。物思いにふけるには最高の場所だ。今回の出来事のせいで、目の前の課題に集中できず、ただ、ひっぱたかれたマウラのことがずっと気にかかった。ミワも課題を進めていたが、どこか不安な様子だった。
マウラは、なにかつよい衝動を持たないと、僕に返事は寄越さない。まして、何かメッセージを送っても、既読はつくがスタンプすら返ってこない。通知音が来ないもどかしさを少しでも忘れようと、この静かな図書館で、筆を動かし続けた。
気がつくと、もう閉館の案内が放送されたので、ミワとともに図書館をあとにした。ミワも心のわだかまりがなかなか取れずにいたので、一旦この場で別れることにした。一人の時間は、気持ちの整理には最適だ。この、宵闇のなかで、ただ静かに瞑想した。何かが解決するわけではないが、そうやって心を落ち着かせることで、見えてくることもある。ふと、あのギター少女のことも気にかかったので、一旦学校へ向かってみた。日が沈んでも蒸し暑さは残り、虫の鳴き声がザワザワと響いた。それが思考の妨げをして、結局何の回答も得ぬまま、いつのまにか学校へ着いてしまった。ちょうど、音楽室の明かりが消えたので、昇降口であの子が降りてくるのを待った。しばらくすると、少女は裸足で降りてきた。
よう。
なんすか?ストーカーですか?
チップだよ。
そういって200円を渡した。
そうやって推しを見つけて散財するタイプっすね?
その鋭い指摘に僕はウッと腰が引けた。
でもこの借りは必ず返します。
名前は?
奏っていうんすよ。カナデは名字だけど、ニックネームでもあるので、ずっとそう呼び続けてください。
あぁ、期待してるよ。
その少女はスニーカーのカカトを潰して、走り去っていった。それにしても、マウラからは何の返信もない。今日はそっとしておくべきだと考え、駅まで自転車を走らせた。電車内は、学生がいない分、かなり空いていたので何するわけでもなく、ただ座席の上で電車に揺られた。駅を出ると、親が待っていた。久々に帰るというので迎えに来てくれたのだ。合宿とウソをつき、ここのところマウラのマンションを行ったり来たりしてたわけだ。車のなかでも特に話すことはなく、家に着いた。
家の布団はたしかにマウラのソファよりも心地よいのだが、心が満たされない。この静かな不安のなかで、ただ天井を見上げていると、通知音がなった。マウラからだ。
今日、来てほしい。
とだけ、返信が返ってきたので、僕はまた友達の家に出かけるといい、一目散に駅へ向かう。本当に、人を振り回すやつだ。




