宵闇
部活はいつも以上にきつかった。練習がきついとか、そういうのではなく、すでに体力が削られた中での激しい動きは、存分に僕を体を痛めつけた。しかし、やるべきことをやったあとの爽快感は、何ものにも代えられるものはない、ささやかな幸福を僕にもたらした。さすがに今日はミワも自主練習に残らず帰るようだ。廊下からヒョイと出てきた。裸足で制服姿を身にまとったいつもの姿だ。
じゃあ帰ろ?
僕はちょっと忘れ物を・・・。駐輪場で待ってて。
学校内に設置されている自販機から適当な炭酸ジュースを買い、渡り廊下の先の廊下へ向かう。その廊下から濃紺に薄暗く輝く空が一日の終わりを感じさせた。まもなくして奥の音楽室からペタペタと裸足で走ってくるギター少女が走ってきた。彼女は、また僕を無視して通り過ぎようとしたのでちょっと待ってと声をかけたら、その場で立ち止まってくれた。その足の指は、子供のように短く、しわも寄っていて、かわいらしい動物のようだった。
なんすか?
今日も遅くまでお疲れ様。これ、奢りだよ。
見知らぬ少女にそんな怪しいもん渡すんすか?いらないっすよ。
いやいやそう言わずに。
今日は女がいなくて裸足のウチをターゲットにしてるっしょ。そんなのには乗りませんよ。
まぁまぁ。
200円なら頂いてもいいっすよ。ライブ代です。
僕はその言葉に、何の迷いもせず彼女に200円をやった。
ありがとうございます。じゃ!
僕は別れの挨拶を言う間もなく、走りさった。足を回転させるたびに、その足裏が垣間見えた。結構あっさりしてる子だな。ただ、お互いに裸足だから、意識するものがある。でもそれだけじゃない。今まで見てきた裸足の女子たちと比べて、一番未来が見えている子だったからだ。僕がウダウダと、あのマンションでうつつを抜かしてる間に、彼女は一生懸命手を動かしていたに違いない。そう思うと、純粋に応援したくなる。
人生の意味を考える人は時々見かける。僕もそういうときはある。でもそういう時って、一番自分を見失ってるんだよな。そんなこと、考える余裕もないって人が一番いいんだ。あの忙しく廊下を駆け抜けるあのギター少女のようにね。
ふと、マウラのことが気になり、メッセージを見てみると、父親帰ったから来ていいよ、とだけ書かれていた。僕は、駐輪場で待っていたミワを誘い、一緒にあのマンションへ向かった。一日は終わったが、夜は始まるというわけか。




