ニュー・モラル
朝起きたら昨日の悪寒はさらに酷くなった。外からザァザァと薄汚れたマンションを一掃するかのような勢いの猛烈な雨音。それがノイズで再び眠ろうとしても寝かせてくれない。マウラは暑くなったのか、汚れのこびりつくカーペットでダランと仰向けになって無防備に寝ていたが、なぜか上履きを履いていた。それに、たたんであったはずの僕のスラックスが、マウラの下敷きになっていた。
ダメだ。動けない。
ここでダラシなく寝ている獣女が起きるのを待つしかない。身体は寒いが、このソファは柔らかく僕をつつみ込んでしまうため、動くことはできない。このまま寝てしまえばいいと思ったが、なかなか寝付けない。目の前は移ろい、物の形を正確にとらえることはできない。この感覚が何とももどかしいので、うつぶせになると、まぶたの裏でも薄っすらと万華鏡を描いていた。ダメだ。重傷だ。私はダランと伸ばした腕を、関節の痛みに耐えながら、下へ伸ばし、視点の定まらないスマホのパスワードを何度か間違えつつも、熱だから休むと、ひとこと謝りを送信したのをうつろな目で確認したのち、電源も落とさず、スマホを落とした。
その音に、裸の獣はムクリと起き出して辺りを見回すと、僕のスマホを手に取った。
へぇこれがあなたのメッセージアプリ。
バカ野郎!
ちょっとだけ!どうせエッチな私の写真を盗撮してるんだろ?
そんなことするもんか。
実は、そのエロ画像は、マウラという最強のフェチマシーンが現れてから、生易しいやつは消し、人を縛ったり、学校を全裸逃亡、生首みたいな過激なものばかり残していた。
ヤバいのばっかだな・・・。
お前が人からどう見られるのか気にするように、僕もそういうのを見られるのは嫌だ
そうなのか?私は構わないけど。
人には見られちゃいけない秘密がたくさんあるんだよ。
僕は手を伸ばして奪い返そうとするが、マウラはヒョイヒョイとかわし、今度はメッセージを開いた。
家族と私と剣道部のグループと、ミワ?あんまり友達いないんだね君らしいよ。私と一緒だがな。
やめてくれ・・・
そういや、ミワって人から返信あるよ
やめろ見ないでくれ。
あ、体調悪いなら体温を見せてくれだって、ていうかこれ、昨日の卵じゃないですか?ミワって足立さんか。
僕が足立さんをミワって名前にしてるのどう思う?
だから、私たちの絆は足の裏で紡がれる話したじゃない?別に何とも思わないよ。
マウラは満足げに、僕にスマホを返してくれた。
そうだ。僕が保存していた女の凌辱されてるのを見てどう思った?
別になんとも思わないよ。ボクはそういう趣味があるんだなーって。
本当にか?
女は見世物じゃないけれども、そんなヤバいこと連想する男たちもいるんだなって。でも、女だって自分の欲望に素直だよ。男ばっかじゃないさ。
女じゃないから分からないがそういうもんなのか?
ともかく絵の女が生首になろうと、私は生きてることだよ。でも緊縛とか、全裸で学校逃げ回るとか楽しそうだね。
こいつならやりかねないな。ともかく、のどが渇いたと言うと、上履きを脱いだ後、なぜか干しっぱなしのサキュバスのランジェリーを着た。前回よりもゴムが伸びてて、しっかりと隠せてはいた。
・・・なぜそんな格好で?
傘差すのめんどいからな。これは乾きやすいんだ。
僕の忠告を聞くまもなく、数百円をパツパツのパンツの中に挟み、さっさと行ってしまった。ピタピタと玄関から出ていく足音が聞こえたから、裸足で出ていったのだろう。ふと窓を見ると、雨の中、確かにサキュバスが裸足で飛び出していっていた。グラビアのような健康体の足をこうも一般大衆に晒すのはもったいないものだとくだらないことを考えていた。
しばらくして、雨も弱まり、ふと外に人影が見えたので、見ると裸体がペットボトルを持って雨の中走っていた。こいつは!?マウラだ。まもなくマウラが裸で戻ってきて、バスタオルを肩にかけながら、お金は返さなくていいよ、とペットボトルを差し出した。
なぜ裸なんだ?
ちょっとね、パンツから100円取り出すときパツーンって切れちゃった。それでお金がチャランチャランってあちらこちらに落ちちゃって拾うの大変だったよ。私必死になって探してるのに店員は見てるだけなんだもんね。
襲われたりしなかったのか・・・
別に?それに着てるものコンビニに捨てちゃったからサキュバスもできなくなって残念。
西暦も半世紀以上経つと、警察組織もまともに動かなくなり、こういうもんは犯罪としては処理されない。もちろん学校でモラルに反することをすれば退学だがな。
あ、そうだ。お姉ちゃんがさ、教えてくれたんだ。ヒニングっていう便利なのがコンビニに売ってるって。だからコンビニでヒニングありますか?って聞いたんだけど、なぜか笑われたんだよね。あのコンビニ嫌いかも。
もしかしてあの裸足のサキュバスの格好で?
よくわかったね。いろいろ洗濯してて、あれしかなくてね。これね。
ガサガサと置かれていた袋の中から、箱を取り出した。これは避妊具だった。もし、悪意を持ってヒニングなどと、あの優しいお姉さんが教えたのならば、あのお姉さんも感性はマウラと一緒だ。
そういえばさぁ、突っ伏してるだけで、全然飲まないね。仰向けになって。
僕はゴロンと仰向けになった。マウラは僕の手からペットボトルを取り、口に含んで、僕にキスをし飲ませてくれた。これではまるで動物だ。人間もこれから動物的感性を取り戻していくんだろうな。ゴクゴクと冷たさのなかにも生暖かさが混じって、僕の喉に残った。
君は、私にたくさん借りを作ってしまったようだね。
ミワの問題を解決すれば、チャラにしてくれるんだな?
無論だよ。
そうだ!熱を測らないと。悪い、持ってきてくれ。
面倒っちいなぁ。
これもミワの問題を解決するためだ。
奥の方から体温計を持ってきてもらった。にこやかに膣に入れるようなジェスチャーをしたが、僕は大きく手を振って、マウラから体温計を取り上げた。脇に挟んでしばらく待っていると、38度という熱らしい熱の結果を出した。それをカメラに映して、ミワに送った。
ミワからはまもなく返事が来て、この端っこの裸の子は誰かな?と返事が来て、慌てて姉だと送った。しまった。背景にマウラの尻、そして、僕のスラックス、雑に脱ぎ捨てられた本校のスカートを写してしまっていた。




