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観察

マウラに頑張れというスタンプを送っといた。すぐに既読は着いたが返信はなかった。今日は不幸なことに、あの子のクラスでは、体育やら移動教室やらがあり、なんと全校集会まである。全校集会は僕も裸足になって初めてだが、あの子は裸足そのものが初めてだからとんでもない羞恥を覚えるだろう。内心、ワクワクしてしまって申し訳はなかった。金沢にそのことを話してみる。


金沢さん、今日ね、僕だけじゃなくて、隣のクラスのマゥ、マナウラさんも裸足だよ?

何のことかよく分からないけれど・・・


そう、無表情で返された。思えば女子にそんな趣味あらため主義を共有するのは変な話か。ただ、次の休み時間、人知れず席を立ち、廊下の隅っこの方に立った。すると、廊下の向こうからガヤガヤと話し声が聞こえた。まもなく体操着の生徒たちが歩いてきた。私も、机に座りドアから一瞬垣間見える足元を観察した。体育に際しては、靴下を履かない生徒もそれなりにいる。夏に近づくに連れて、素足で学校に来る子も男女含めてちらほら出てくるから、それ自体はあまり珍しいことではない。足立さんも歩いてきたが、あの子はもちろん靴下をはいていない。そして、問題のマウラが窓から見えた。何気ない顔で堂々と、歩いているように見えた。ドアから見えた足元は、裸足だった。なんの躊躇もなくペタンペタンと床に足をつけて歩いていた。ふと金沢さんも見てみると、マウラが歩いていった方をじっと見つめていた。金沢さんも素足で上履きを履いており、あの子も見られる側なのだが、見る方も趣味らしい。ちなみにほとんどポーカーフェイスだが、リズムよく上履きの中でつま先を立て足の筋を立てながら、体を前後に動かしてるときは、気分がいいときだ。

マウラもマウラで、昨日舐め回し見つめ続けた足の裏で一歩一歩廊下を踏みしめてるんだなと思うと、興奮してくるな。やはり学校という空間だからこそ、この足の裏はどうなってるんだろうという、想像の無限性、つまり足の裏の宇宙が、金沢さんや僕、マウラを線で結ぶのだ。足フェチだけの宇宙であるが。

しばらくマウラを観察することにする。マウラが体育から帰ると、僕も廊下へ出る。ジトッと湿った足跡からかなり強い足の臭いと奇妙な生ゴミの臭いが漂う。マウラは今裸足で堂々と歩き、その臭いを拡散させているというのか?昨日のことを思うと罪深い。

静かに通知音がなったので、そのまま廊下で見ると、トイレのときどうするの?って着てるから裸足だよ?って返すと既読がついたまま何の返信もなかった。するとマウラが教室から出てきた。裸足同士の対面だ。短いスカートから生足が堂々と伸びて指先まで晒してると、裸でいるようなみっともなさを感じる。女子は男子よりも足の露出が多いから、ハンデも大きいのだろう。それでもマウラは堂々といつもの大人びた風貌で、僕を無視してトイレへ吸い込まれていった。しばらく廊下で待っていると、マウラがトイレから出てきた。すれ違う際、今度はちょっと睨まれたような気がした。その隠しきれない感情に、僕は少し歓喜した。

そんな調子だから、全校集会でも特段彼女は恥ずかしそうにしてる素振りも見せず、しっかりと地に足を付けているという感じだった。まさに昨日、僕とあの子の蹂躙し合った足。その生々しい足が、まざまざと公衆の面前で晒られあう。それでも事情を知らない者たちは、僕たちを単なる原人のようにしか思わないだろう。ただ、真実を知っている人間は、この背徳的なエロティックな心に磔にされるのだ。僕とマウラはただ立っているだけだった。

全校集会も終わり、やはりマウラもペタペタとマンションにいたときと変わらず、堂々と歩いているように見えた。放課後になるのも早く、今日こそは僕も部活へ出る。マウラの下駄箱に寄ってみたが、何も入ってないから、帰ったようだ。すると足立さんがスタスタ歩いてきて、なんでマナウラさんの下駄箱を?と聞くから、間違えたとだけ答えると、ふーんとだけ答えた。普段足立さんは昇降口でローファーに履き替えて部室へ行くのだが、今日は上履きをしまうだけで、裸足で直接渡り廊下から部室へ行くようだ。


ヤキザトくん、行こうよ。

あ、あぁ


僕は一緒にお互い裸足でスタスタ歩いた。


こっち側から行くの珍しいね。

マナウラさんが裸足だったから、羨ましくなっちゃった。

汚いからやめたほうがいいよ?

この一瞬だけだから平気だよ。

やっぱり、足立さんも足に興味あるの?

え?涼しいからいいじゃん!


足立さんには、特に足に興味がないように思えた。やっぱり普通の女の子だ。今日も練習に励み、さっさと帰ってしまいたいと、着替えて、いつもの暗い渡り廊下へ向かった矢先、その暗がりから急に足立さんがよっと裸足で飛び出してきた。


うわっ。

びっくりした?

いつもは監督と一緒に素振りしてるのに珍しいね。

今日はちょっとね。


剣道をしたあとの防具の臭いを纏った二人の裸足の生徒が、無自覚にこの空間の空気を汚す。お互い、裸足にも臭いにも慣れっこだ。2人並んでペタペタと暗い廊下に音を響かせる。


あのさ、ヤキザトくんがこんなに近いの、初めてだね。いつもはもっとこう、若干遠くを歩くのに。

え?そう?気づかなかった。

意外とそういうの嬉しいよ。でも、普通はそうやって親密になってくんでしょ?

え?どういう意味?

マナウラさん、なんで裸足だったのかなぁって今日ずっと考えちゃった。それに、おはようって話しかけたとき、ヤキザトくんと同じ匂いがしたんだよね。

!?

大丈夫だよ?あまり深入りはしないから大丈夫。

そうか。よかった。


足立さんの新しい能力を見つけてしまった。それは嗅覚だ。女性特有の何か特別な才能なのだろうか。朝感じた若干の違和感っていうのは、本物だったのだ。僕はふと、メッセージをのぞいたら、マウラから、今日必ず家へ来てください、という律儀だが脅迫めいた文章が届いた。ちょっと恐ろしいが、行くしかない。駐輪場で、足立さんが、一緒に帰る?、と聞いてきたが、僕は用事があるからと断った。帰り際、ふと足立さんの悲しそうな表情が見えた。

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