上履き忘れ 再び
気がつくと窓から光が指していた。そして目の前には足の裏。その先に、裸体で寝ている女の姿。僕はそのナマの身体に挟まった足を引き抜く。それでもこの女は目覚めない。ソファに腰掛け、尻をひじ掛け代わりに、足の裏に触れながら、天井を見上げ、しばし昨日の余韻に浸った。ふと、足で何か硬いものを踏んでいると感じ、それが僕のスマホだと気づいたので足で掴んで取った。起動してみると、7時を過ぎていた。一瞬飛び上がったが、ここがマウラの部屋だと思い直し、また静かに座った。
うーん。。。
僕が無理に立ち上がったので、ソファを揺らして起こしてしまった。まもなく、ガバっと立ち上がり、脱ぎ捨てた下着とスカート、ワイシャツを着た。
あんたもさっさと服着なさいよ。
僕も急なことで慌てて落ちていた服を着た。マウラはバタバタと洗面台にいったのち、水を勢いよくながす音と、口をゆすぐ音が聞こえてきた。その後、ふぅっと一息つきながら洗面台から現れて、この部屋の常夜灯を消した。その後、ソファに座り、自分のバッグを持ち出して、簡単に整理した後に、スマホを突っ込んで閉めた。そのあと立ち上がって冷蔵庫のある廊下ヘまた行きコーヒーのペットボトルを持ち出し、口をつけて飲んだ。あんたも飲む?と促されたので僕も口をつけゴクゴクと飲んだ。ありがとう、とペットボトルに蓋をして返す。ペットボトルをまた冷蔵庫に戻すと、戻ってきてソファに腰掛け、また一息ついた。
やっぱこのルーティーンがないとな。
朝から冷たいもん飲むといいね。
だろ?
朝というのは特に気分が悪くなる。起き上がれない時すらある。恐らく人間の防衛本能だと思うが、これを無理やり解消しながらやっていかないと、時間主義の世界では生きていけない。だからこそルーティーンは大事なんだよな。
僕さ、そろそろ剣道部のやることあるから、行っちゃうね。
あ、じゃあ今日は私も出ちゃおうかな。
お互いドタドタと自然な足音を鳴らし、玄関まで歩く。
足の裏は、マウラについては、僕の唾液、そして、実は昨日、床に散らした僕の乳液を足の裏で楽しそうにいじったり、ねばぁっと伸ばして舐めたり舐めされられたりした。・・・苦い思い出。それが、カピカピに白い跡を残していた。むろん僕も乾いたマウラの唾液、愛液、自分の液、液まみれ。それに、寝よだれもこびりついていた。しゃあないなぁ。僕が若干履くのを躊躇ってると、マウラが僕のローファーを履き、後ろを振り返り、真顔で、昨日のことは他言無用!あとマウラってセリフ学校では一切禁止!と言い放ち、ドアを開けて出ていく寸前、ちょっと待った!と僕の言葉に、なによ?と不満げな顔で振り返った。あぁ、ローファー?寝ぼけてたわ、私の履いてっていーよー、ドアを出てってしまった。仕方なく雑に脱がれたローファーを暗がりから探し、履いてみると意外とフィットした。僕も外へ出ると、マウラは横に立っていた。ほら、カギでしょ、とドアをガチャリと閉めた。そこは、意外と律儀なんだな。当たり前か。
じゃあ僕は行くよ。
また学校で!
二人は一旦分かれ、僕は自転車で昨日来た道をまた、戻っていった。この森も朝日を浴びると、気持ちよく光が差して、虫のさざめきや鳥のさえずりが僕の心を穏やかにするいい道だと感じた。昨日のザワザワした心が水風呂でととのうってやつなのかな。僕は密かにサウナに憧れた。
学校につく頃には、足の中でだんだんと蒸れていき、さまざまな液がマウラのローファーの中で溶けて気持ちが悪かった。こんな状態で臭い大丈夫かなと昇降口でローファーを脱いでみると、足の匂いだけじゃない、ぬか漬けのような発酵臭がして気持ちが悪くなった。僕は一旦ペタペタとトイレへ向かい、蛇口で足を洗ったあとに、そのへんの雑巾で適当にゴシゴシこすり、その足で部室まで行った。
同じく、裸足でいた剣道少女の足立さんから昨日は大丈夫だった?と心配されたが、汗臭い僕に何かを感じたような目を一瞬された。女特有の何かを察知したのかもしれないと、一瞬思ったが、道場に入れば、そんなことは、もう忘れた。道場の掃除と、素振りをしながら思っていたが、足立さんって感性は恐らく普通の女の子なんだよな。マウラや金沢が少しエキセントリックってだけなのかもなぁ。
道場から裸足で昇降口まで歩いたとき、ふと上履きのことに気づき、マウラのメッセージをのぞいたが何もない。
こういうときは、ひと言くらい返事くれよ。
僕は彼女の変人さに少し呆れた。まず僕の下駄箱を見たが上履きなし。マウラの下駄箱を見ても上履きなし。あの子、なにやってんだ?僕は仕方なしに、裸足のまま、自分の教室まで向かい、おもむろにマウラのいる教室を覗くと、なんとマウラは上履きを履いていない。裸足を晒して、机に突っ伏していた。あ、上履き忘れたな?思わず笑みをこぼしてしまった。




