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帰り道

お待たせ。

意外と遅かったんじゃない?それよりも、私を後ろに乗せてよ。


マウラはおもむろにバッグをかごに入れ、ぼくの後ろに乗った。マウラの要求はなかなか断れないから仕方なしに、受け入れることにした。マウラは胸を密着させて、腰に抱きつく形になった。汗が張り付くのに甘い安らぎを覚えた。マウラは意外と重く、うまく走れるか心配だった。


しっかり捕まっててよ。

うん。

それで方向はどっち?

あのまっすぐ進んだ森の先にあるマンションね。


僕は自転車を漕ぎ出した。はじめのうちはよろけそうになって、一瞬ヒヤッとしたが何とか持ちこたえた。先の交差点は車も通らないし、そのまま素通りした。そこからは一本道で暗い森の道を通る。お互い黙っていたが、何もしゃべらずとも心地よかったからだ。ギュッと僕に張り付いてるマウラからもそう感じられた。それにお互いに素足でローファーを履いてるっていう事実が、見えない一体感をもたらす。夜風を切る気持ちよさ。ローファーに張り付く足の裏。その感覚をお互いに共有しているのだ。暗い森の道を抜けると、道が開けると、左側に4棟ほどドミノのように立ち並んでいるのが見えた。


これ、どっち?

あのBって書いてある棟の2階の204号ね。


薄暗くBの文字がマンションの最上階の端に見えたので、その棟の付近の錆びた屋根の駐輪場に適当に停めた。ここまではゆっくり来たので、あまり疲れてはいなかった。


じゃ、行きましょ?

そうだね。


礼も言わずに、カバンを持ちさっさと向かってしまったが、僕は気にせず、マウラについていく。階段を上がり、すぐ目の扉が、マウラの一室だったが、部屋の中は真っ暗だ。鍵をガチャリと開けると、独特のカビの臭いが漂った。マウラは電気をつけた後、さっさとローファーを脱ぎすて、揃えることもなくベタベタと廊下の先のリビングへ歩いていった。仕事を終えたOLさながらだ。家という空間は裸足を自然にさせる。それに足の裏がチラッと見えた。やっと足の裏を拝められた。


お邪魔します。


僕も家に入り、鍵を閉めて、ローファーを脱ぎ、若干躊躇しながら裸足で上がり、ローファーを揃えてから、ベタベタ、リビングへと向かった。


廊下の電気消しとして。

これか?


リビングにはマウラ一人しかいなかった。ソファーで一人足を伸ばして座っていた。


ここで座っていい?

うん。


僕はマウラに少し密着するように座った。マウラの裸足のまま足を伸ばす自然体でよかった。指先まで晒している大きな足は、やはりオトナの香りを感じさせるのだ。


また足見てるんでしょ。私ね、この前の集会のとき隣になったじゃん。その時ね、あなたの存在と、なによりあなたの足が隣に現れてね。いてもたってもいられなかったんだからね。

平常心を保つのに精一杯だったと?

そんなことはないよ。ただ、私を動揺させた罪は重いよ。

怖いこと言うな。


真顔でこちらを見つめるもんだから、苦笑いをしてしまった。


そういえば、親は帰ってくるの?

親は来ないよ。

え?

ま、そんなシリアスな話じゃないけどさ、ここ、父親の出張先の拠点で、会社が近くにあるんだけど、長距離トラックなんだよね。最近、妙に忙しくなってね。へんな軍事用の何かを運ぶようになったんだって。いろいろ全国飛び回ってるから、給料は普通の倍近い額もらってるらしいんだけどね。それに母親の方もさ、こんなかび臭い場所でずっと暮らせないって言って首都地域の反対側の地域の実家に帰っちゃったんだ。

なぜ一人にされたんだ?

私がさ、これから一人で生きていくためにって、ほらもう高校生じゃん。やっぱ自立しないとね。

立派なんだな。


ここからお互いに若干の沈黙があった。僕も足を伸ばした。やはり、マウラよりも一回り大きいゴツゴツとした大きな足だ。そんな沈黙をマウラが破る。


あなたって、こういう場所ではあまり喋れないんでしょ。私も実はそうなの。女だから男よりは有利だからこうして喋ってられるけどね。私もあまりクラスに馴染めてないんだ。

・・・そうなんだ。

だから同じだね。でもそれでいいんだよ。お互いに裸足っていう共通点があればさ。お互いに一緒にいられるわけじゃん。私の場合、靴下を洗濯する手間も省けていいけど、たった一つの絆があるだけで、人は一緒に暮らしていけると思うよ。

僕と付き合おうってことか?


僕はさりげなく、思い切ったことを言ってしまったことに気づきたので、一瞬背筋が凍ってしまった。


ま、そうなるのかな。


マウラは足をパタパタとさせた。それに顔を見てみると、どこかうれしそうな表情を浮かべ、ニコニコしていた。家族以外の異性と、こんなに長い時間、空間を共有するのは初めての出来事だ。どこか浮ついて、モジモジと自分自身の一挙一動に神経が集中してしまう。


私ね、一人で寂しかったんだ。だから、こうして一緒にいてくれるだけでいいんだ。それよりも、さ!


マウラはバッグからおもむろに僕とマウラ両方の上履きを取り出した。

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