男と女
辺りは暗くなりかけ、山へ沈みかける太陽が空に伸びる雲を照らし、橙色から紫へと変わりつつあった。僕はスタスタと歩くマウラの後をペタペタと追う。まだ足の裏が乾ききっていないので、せっかくきれいにしてくれた足の裏がさっきよりも汚れそうな気がした。屋上から廊下へ出たとき、マウラからはその屋上の鍵は閉めといて、と言われたのでドアノブについている取っ手式の鍵を横にガチャリと閉め、開かないことを確認した。そして、暗い階段を足を踏み外さないように、手すりに捕まりながら一歩一歩降りていった。
とんでもない執念だよね。上履きなんか買えばよかったのに。
マウラが唐突に語りかけてきた。その声は、マウラの上履きのタッタッという硬い音、僕のヒタヒタという生の足音とともにエコーになって廊下に響いた。
なんでマウラが僕の上履きを履いてるのか気になっただけだよ
呼び捨てにするの?いいけどね。
僕は無意識にマウラを呼び捨てにしてた。大人びたマウラのイメージが、少し柔らかく思えたからだろう。最初にマウラの向かった先は、自分のロッカーだった。ゴソゴソとロッカーに手を突っ込んで、自分の上履きを取り出した。
この上履き、逆に入ってたから気になってたんだ。
しまった。迂闊だった。まぁあのときは急いでいたし、今となっては仕方のないことか。マウラはロッカーを閉め、行きましょう、と上履きを片手に持ち、再び歩き出した。
隣に来ないの?
え、じゃあ。
私は若干離れた位置で隣になったが、マウラが腕を引いて僕を引き寄せた。この誰もいない暗い廊下のなかで甘くて優しいような気持ちに包まれた。マウラからは飾らない汗の臭いがほんのり漂う。それにしても片方は素足に上履き、もう片方は裸足という、奴隷と召使いのような関係性をどうしても想起してしまう。誰にも見つからないことを祈るように昇降口へ向かっていった。
昇降口につくやいなやマウラはカポッっと上履きを脱いで足を露わにした。大きな足で指がきれいに長く伸びていた。指の先が蒸れていてほんのり赤く染まっていた。両足の露わになった制服姿の女子高生を見るのは、足フェチにとっては最上の幸せだ。その足からはほんのりと剣道の防具のような熟成された足の臭いが漂う。これが僕の上履きを履いたマウラの臭い・・・。マウラはその上履きを直にバッグにしまった。
何見てるの?あんたもさっさと靴履きなさいよ。
僕は慌てて自分の下駄箱の前にさっと移動した。そして、ローファーを地面に投げ置く。
私はまだ裸足見られるの慣れてないんだからね。もしかして、こうやって女の子の足を見るのは初めてなんでしょ。
まーそうなるな。
実はあのインフルエンサーの生の裸足を見てしまったことは、黙っておいた。お互いローファーを素足で履き、外へでた。マウラが直に素足でローファーを履く姿は、板についていた。マウラの体格の良さと、大人びた雰囲気のために、たとえ制服姿であっても違和感を感じないのだ。
私、学校を出た先の裏手の交差点で待ってるね。
マウラはスタスタと歩いてしまった。僕が自転車通学をしているというのを分かっているようだ。それに、マウラだってさすがに、辺りが暗いとはいえ、部活をしている生徒に見つかるのは厄介だと思ってのことだろう。僕は校舎脇の自転車置き場から、自分の番号のところに向かい、ぎゅうぎゅう詰めに密着した自分の自転車の鍵を開け、ガチャガチャとなんとか取り出し、言われた通りの場所へ行く。
学校の裏手といえば、周りは雑木林に囲まれて、薄暗かった。野球部のグラウンドのまぶしい光もこの道は照らさず、自転車のライトを頼りに、ゆっくりと漕いだ。
その先に人影が立ってるのに気づき、数メートルまで近づいたところでようやくマウラであることに気づいた。




