誘い
足の裏が拭かれてることに快感を感じているさなかに、急にその手を止めて、僕に拭いたものを広げて見せた。ずいぶんと真っ黒に汚れており、今日もたくさん歩いたんだなぁということが実感できた。マウラは無言だったが屈託のない笑顔を見せていた。印象に似合わず、素直な子なんだな。そのシートをなぜかバッグのなかにしまった。
こんな汚いものを・・・僕が捨てるよ。
いいの。これは私の宝物だから。
よほど僕の足が好きなんだなぁ。それに僕の足をほぐしているうちに、自分の心までほぐしてしまったんだな。彼女はおもむろに僕の足の裏を掴み、手の親指で足の裏の硬くなっているところを触り始めた。皮が分厚いので、あまりくすぐったくはなかったが、夢中になって触ってるもんだから、なかなかこの姿勢をやめるわけにはいかない。それに、女の子が僕の足の裏を何の躊躇もなく触るという奇跡が目の前で起こっているから、ずっとこのままでいられた。このスキンシップが何とも言えず心地よい。永遠にこのままでいたいとすら思えた。
僕の足が好きなんだね。
それは正確ではないけど、今はそういうことにしとく。
これは、いわゆるツンデレってやつなのかな。だが、ともかく話を前に進めたい。宴も酣、心地よい気分を自分で遮るのも気が引けたが、甘い静寂を破るひと言を放つ。
一旦僕の上履きを返してくれるかい?
彼女の手が止まり、俯いて何か考えたらしい。束の間の沈黙の後答えた。
私が今上履きを脱ぐとさ、裸足でここから昇降口まで行くってことになるじゃない?女子としてそれは嫌かな。
ここまできて自分が女子であると主張するか・・・。じゃあどうするっていうんだ?
む!私が女子じゃないっていうの?
い、いや悪い。マウラさんはれっきとした女子だ。
そう、安心。
ともかく話をはぐらかさないでくれ。僕があのロッカーから上履きを持ってくればいい?
やっぱりあんたがロッカーいじってたのね・・・はぁ
それも悪かった。
まず、私が普通の女の子ってことを認めるのが先なのかもね。
うぅめんどくさい。この女、話が全く進まない。早く上履き返してほしいだけなのに。僕は自然と、そのじれったさから、足の指をモジモジと動かした。
かわいいね。ふふっ!そんなに返してほしかったらさ。まずうちに来なよ!
え、いいの?行くよ!
これってもしかして僕を誘っているのかもしれない。これから続きが始まるのか?日が沈むにつれて、僕の心の獣が唸り始めているのを感じた。




