夕日
ペタペタと廊下を登る。3階の屋上へ続く階段。誰も通らないし、掃除の対象にもならないからホコリが階段の脇にたまっていた。それにザラザラとした感覚が、足の裏から直に伝わったので、手すりにつかまり片足になって、それぞれの足の裏の汚れを手で払った。ホコリがチラチラと舞い、手も黒く汚れてしまった。それをパッパッと払い、再び階段を登り、屋上前の扉にたどり着く。扉からはオレンジ色の光が差し込み、辺りの構造物から影が伸びていた。
・・・この先にマウラがいるのか?
ガチャリと重い扉を開ける。外へ出ると、真っ赤な夕日の中で、心地よい風が吹いていた。野球部の掛け声や剣道部の奇声など、部活に夢中になっている子らの声が、遠くこだましている。ガチャン。扉が閉まる。屋上の床はコンクリートで、ザラザラしており、歩きにくそうだ。ふと辺りを見回すと、目の前の構造物から、一つの影が伸びているのを見つけたので、そこに人がいるのが分かった。マウラだ。
鳥の糞を踏まぬように慎重に足元を見ながら歩き、構造物を背にして座っているマウラのところまで向かった。そこには確かに素足の美少女マウラがいた。ただ、その顔はどこか遠くを見つめているようだった。
マウラさん!約束通り来ました。
あなたという人は、まるで犬のように私を追い回すのね。
僕の方を向くこともなく、まるで、僕が未練がましい男のような口ぶりで軽蔑された。
いや、あのね、僕は上履きを返して欲しいだけで・・・
ねぇ、一緒に景色見ない?
え?
私は隣に来るように促されたので、彼女とは少し距離を空けて座った。
私ね、この風景好きなんだ。だってさ、夕日ってすべてを忘れさせてくれるから。
・・・。
僕は、急に彼女の口からでたロマンチックなセリフに、どう答えてよいか分からず、黙ってしまった。
あなたってさ、親密な人とではないとうまく喋れないタイプでしょ。だったらさ、今日そうしない?
!?
だから!足の裏をこっちへ差し出してって言ってんの。
彼女の急な問いかけに僕は無言で従った。両足を座ってるところに乗せて、膝を倒して彼女に足の裏を向けた。いわゆる女ずわりという形になったので気恥ずかしく下を向いた。すると、彼女はバッグの中から、ウェットティッシュを取り出して僕の足の裏を拭き始めた。
うっ!?
一瞬声に出してしまったが、かなりくすぐったい。多少なりとも足の裏にダメージが蓄積してるので、ちょっとこすられるだけでも、敏感に反応してしまうのだ。
ほら、動かないの!
指先から指の間、母指球から足の裏が地面に接するアーチからかかと、さらに土踏まずまで丁寧に拭いてくれた。とても心地よかった。こんなこと、親でもやってくれない。この穏やかな夕日の中で、まどろみの中へ沈んでいくようだった。彼女は、気が済むまでずっと私の足を拭いた。




