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裏世界の予感

教室の方から一人の女の子が話しかけてきた。


ヤキザトくんって最近いつも裸足だよね

あれ、カナザワさん・・・


学級委員長を務めている金沢さんだ。実は彼女は彼女で、入学式の頃から素足で上履きを履いている、メガネっ子のおかっぱ少女だ。大柄ではないが、ちょっと女子にしては背が高い方で、素足であるのに子供っぽくは見えなかった。最近の気候変動で、夏に素足でいるっていう子は一般的になりつつあるが、この子に至っては入学式から靴下を履いておらず、さらに入学時の一番の成績優秀者であったので、新入生を代表して、登壇した。その時、彼女が素足で上履きを履いているのを目の当たりにしたとき、全身に電撃が走り、心臓が強く鳴りっぱなしだった。入学式の晴れ舞台というのに、僕はずっとあの子の足に虜になっていた。


1年の頃は別グラスだったが、彼女が靴下を履いているのを見たことがない。それにもかかわらず、上履きのカカトを踏み潰すようなことはなかった。そこはあの剣道少女の足立と同じだ。夏なら分かるのだが、あの二人の共通点は、僕もそうだが、真冬でも素足だったこと。委員長に至っては、このいかにも真面目な風貌で素足なのだ。このアンバランスさがそそるんだ。1年の頃、大掃除やら文化祭やらで何度か見かけたが、上履きも履かず裸足で奔走する姿は、昭和の美少女さながらだった。


そんな金沢さん。僕のことをとうとう見かねて注意するのだろうか。僕は足の指をモジモジと動かしてうろたえてしまった。


僕が裸足なのは、最近上履きをなくしちゃって、探してるところなんだ。


僕は、彼女のまっすぐな視線が、何か僕を咎めようという雰囲気を感じたので反射的に弁明をしてしまった。


あ、あの、そういうことじゃないんだ。もし、よかったらだけど、私の上履き履いていいよ。


彼女は上履きを脱ぎ始めて裸足になり、至極真面目な顔で上履きを突きつけられた。なんで履く方をこっちに向けるんだろう。彼女の足の強烈に酸っぱい臭いが僕の鼻に突き刺さる。若干身を引きつつも、ちらっと上履きの中を覗いてみると、両足とも足がペタッと接地する部分の布が破け、きれいに黒ずんだ足跡を形成していた。これはもはや芸術作品だ。さすが、入学式から素足で丁寧に履いていただけある。そんなものを履くわけにはいかない。いやいや何より状況がさらにややこしくなる。


そしたら君が裸足になるんだから、そこは平気なの?

い、いや、裸足なのは私の主義だから・・・。


彼女はうつむき、自分の足を見ながら、内股になって親指同士をくっつけて、指をギュッと握った。急に来た学校で経験されうる最高のフェチズム。彼女がものすごくかわいく見えた。足だけではなくて、もっと危ないことをしてしまうんじゃないかという恐怖に駆られた。


い、いや、僕の足と君の足、大きさが一回り違うでしょ?だから君の上履きを履いたとしても、窮屈でたまらないと思うよ。

たしかにそのとおりだね。・・・一つ聞いていいかな?

うん?

君、足フェチだよね。

!?


僕は意表を突かれ、目を見開いてしまった。


実はね、私、足の裏をネットに晒してるアカウントがあるんだ・・・

なに!?

律儀でウブな裸足のヤキザトくんなら分かってくれると思ったんだ。実はずっと前からこの時を待ってたの。


この子はもしかしたら自己顕示欲の塊の変態なのかもしれない。だいいち入学式から素足で上履きを履いていたのは、自分の足を晒すことに興奮を感じるためだったのかもしれない。僕と同じ人が他にもいたとは・・・。ポーカーフェイスの裏側はやはり侮れないな。・・・マウラさん顔負けかもしれない。


これ、ちゃんと届いてるかな・・・。間違ってグループラインに届いてるかな・・・。


おもむろに携帯を取り出すと、ちゃんと金沢さんから通知が来てた。そこにはリンクが貼ってあって、開いてみると「足の裏の園」というアカウント名で、アイコンとヘッダーにドアップの足の裏が映されていた。プロフィール欄には変態JK16歳の足の裏を全国にお届け♡、という半ばスパムのような印象を受けたが、フォロワーは10万人を超えている。すげぇ。神の足裏インフルエンサーだ。ただのまじめな変態に見えた彼女に後光が差すような神聖さを覚えた。ただ、頭の整理がつかず、彼女のイメージがさらに壊れることに謎の恐怖心を感じたので今は投稿を見るのは控えた。


すげえ、そんな趣味持ってるんだ!

だから主義って言ってるでしょ?趣味じゃありません!


彼女は表情を変えず、斜め上を見ていた。彼女なりの恥の表現なのだろうか。それに自分のアカウントをさらけ出して満足したのか持っていた上履きを地面に置き、足を突っ込み、つま先を床にトントンとやって、足を丁寧に上履きに納めた。やっぱりそこは真面目なんだな。それにしても、その有名アカウントの足の臭いをまざまざと嗅いだのはおそらく僕だけってことになるのかもしれない。思えば中学生の頃からやってたのかな。アカウント作成日時が数年前だった。趣味っていうのはいずれ主義になるってわけか。


じゃあ、このことは誰にも秘密ね。一応フォローしてね。じゃ、足気をつけてね。


帰り際に初めて見せた笑顔は可愛かった。委員長の裏の姿を垣間見て僕は満足だ。ただ、なにより屋上へ急がねば。あの子を待たせるのは若干怖い。


さっさと身支度をして屋上までの廊下を歩いていると、今日はやけに素足の子がピックアップされるなぁととりとめもないことを感じていた。もしかしたら、このうちの誰かを選べってことなのかもしれない。この世は結局、全て一意に定まるのだが、もしパラレルワールドがあったとしたら、僕は彼女たちの行方を全て体験してみたい。僕は心の何処かで裏世界が存在するのではないかと予感した。

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