約束
マ、マウラさん
・・・。
彼女は、私の方を向かず、スタスタと早足で一直線に、手を握りしめ、自分の犯したことを振り払うかのように、振り子のように振り上げながら、身をこわばらせて、渡り廊下の方へ逃げ去ろうとしたから、待ってくれ!と一声かけたら、ピタッと時間が止まったかのように、彼女は動きを止めた。まもなく、自然体に立ち、僕の方を向かずに答えた。
私、マナウラですが・・・。まるで悪魔のような名前で呼ばないでください。
低く透き通った声で、まるでオトナの女性という感じだった。その引き締まった脚に、くっきりとしたアキレス腱、そして人を魅了するかのような無防備に晒した大きな足の甲も、むしろ彼女に品性を与えていた。
あ、す、すみません。
僕は、社会の裏側を垣間見てしまった、卑小なガキのごとく全身が緊張してしまい、思わず彼女に目をそらして謝ってしまった。
でも、なんかマウラって名前、面白いからその名前で呼んでいいよ?じゃあね。
マナウラ、改めマウラは、自分の名前の間違いを盾に、その場から立ち去ろうとした。
あ、ま、まだ用件は住んでいないじゃないか!マウラさん!
僕の呼びかけに、マウラは初めてくるりと振り返った。先ほどとは打って変わって、冷静なまじめな顔をして言った。
では、今日の放課後、部活を休み、屋上へ来てください。私も上履きを履いていきます。
彼女はふたたび渡り廊下のほうを向き、スタスタ歩いていった。私の印象としては、泥棒猫のはずが女狐の正体を現し、屋上で何かとんでもないことをされるのではないか。もはや上履きなど帰って来ないのではないか。さっきまでの宝探しのようなワクワク感と打ってかわり、夕暮れの山奥の神社に忘れ物を取りに行くような寒気のする緊張感が僕を支配した。




