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袋のネズミ

マウラさん?ですか?


僕が話しかけるやいなや、振り返ることもなく、スルスルと人の間を通り抜け自分の教室へ入っていった。

ええぃ迂闊だったか。確かにあの子は僕の上履きを盗んだ女の子だ。それが、大勢の前でバレるとなると今後の学校生活、ひいては人生のだいじな時期を棒に振ってしまうことだってある。こんなところで話しかける僕がバカだった。僕はといえば、通りかかるやいなや、足をツンって上履きで突かれたり、人混みのなかで、僕の足を踏んでしまったことに気づいた女子が、ヒャッと小さく悲鳴をあげる始末。裸足でいることには慣れたけど、これだと足も心も、傷つきまくりだ。ちなみに、帰り際にちらりとあの子の教室を覗いてみると、あの子は机に突っ伏していた。


作戦Mは見事に失敗。だとするとあの子の行動パターンを探るしかないのかもしれない。だが、誰かに聞くわけにもいかないな。ストーカー野郎のレッテルを貼られると、本気でこの学校にいられなくなるかもしれないからな。というわけで、あの子が昼休みに何をしてるのか探ってみるか。一応、昼休みにも道場の掃除っていう面倒な仕事が剣道部員には課せられているのだが、今日は家の都合ということにして、あの子の行動を探る。


隣のクラスは昼休み前は音楽の授業だったらしく、渡り廊下をぞろぞろと向かってきているのが見えた。ある程度人の流れが途絶えるのを確認したが、あの子の姿は一度も見えなかったな。改めて教室を確認しても、あの机には誰もいなかった。もしかしたら、音楽部員なのかもしれないと、ザラザラとしたコンクリートの渡り廊下を冒険少年さながらにたったっと走り抜け、再び廊下をペタペタと歩き出した。振り返ると、白い砂ぼこりが足跡のかたちで残ってしまっていた。やはり足跡を残すのは恥ずかしい。僕の行動パターンが丸わかりじゃないか。野生の人がここにいるぞとからかわれるのがオチだ。そんなことは、どうでもよくはないかもしれないが、もはや裸足である以上足跡のことは一切気にせず、廊下の一番奥にある音楽室へ来てみたものの、下駄箱に上履きはなかった。音楽部は昼休みに練習をするという習慣はないのかもしれない。


数ある上履きの足跡の中で、僕の足跡が音楽室側に残されているのを見ながら、折り返してペタペタと足跡を残す。半分まで歩いたところで、渡り廊下から一人の短髪でやせた感じの小さい女子がひょっこり出てきた。その子はなんと、素足で上履きを履いていた。僕は思わず立ち止まったが、あの子の方は、まず床をじっと見た後、目線がだんだんうえに上がってきて、僕の存在に気づき、意表を突かれたような顔をした。一瞬の沈黙があったが、女の子は軽く会釈をしながら僕に関わるまいと言わんばかりに早足で軽く会釈をしながら僕を通り過ぎ、音楽室手前で上履きを脱いで裸足を晒し、音楽室へ消えていった。まもなく、エレキギターのチューニングをしてるのだろうか?ジャランジャランと廊下まで音が届いていた。


・・・音楽のことはよくわからないが、あぁいう無鉄砲そうなやつが音楽を極めるのかなぁと、これまで関心がなかった音楽に思いを巡らせた。私がずっと立ち止まっていたのは、あの子が素足だったからに他ならないが、私は再び歩き始め、トイレの前を通り過ぎようとした次の瞬間、女子トイレから今度は本命のマウラが出てきたので、僕も驚いて一瞬身を引いてしまった。ただ、このことをよく見ると季節はまだ梅雨も明けてない頃だというのに、妙に汗をかいて頬に熱を帯びているようだった。足を一瞬見たあと、視線が僕に向いた。大きく見開いて、吸い込まれそうな気迫を感じたので、私はその場で固まってしまった。

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