第3話② 大魔王校長、爆誕!(後半)
ミノタウロスは、緊張した面持ちで壇上へ上がった。両手で一枚の紙を持っている。手が震えていた。
勝家は台本を確認する。
「それでは、入学生代表、ミノタウロス君より誓いの言葉です。」
ミノタウロスは紙を持ち直した。
「わ……われわれ……いちどうは……。」「このような……きかいを……いただいたことに……かんしゃし……。」「せいいっぱい……まなふことを……ちかいます……。」
信長が小さく呟いた。
(惜しい。)
頭の中でルシフェルが答える。
<惜しいな。>
「せいとだいひょう……ミノタウロス。」
読み終えると、体育館は大きな拍手に包まれた。
ゴブリンたちまで訳も分からず拍手している。
ミノタウロスは照れくさそうに頭をかいた。
信長は満足そうに頷く。
「よく頑張った。」
<昨日まで文字もろくに読めなかったのだ。立派なものだ。>
(褒めるところは褒める。)
<教育とはそういうものか。>
(そういうものじゃ。)
勝家は次のページをめくる。
「続いて。来賓より祝辞を頂戴いたします。」
「校長と融合されておりますルシフェル様、よろしくお願いいたします。」
信長は一瞬固まった。
(急に来たぞ。)
<聞いておらぬ。>
(どうする?)
<……仕方あるまい。>
信長の体が一歩前へ出る。外から見れば同じ人物だが、雰囲気が一変した。体育館の空気が張り詰める。
『皆の者。』『ルシフェルだ。』
一瞬で全員が背筋を伸ばした。
『私も正直、今の状況には驚いている。』
魔族たちが顔を見合わせる。ルシフェル本人も驚いているらしい。
『しかし、これは信長殿が与えてくれた良い機会だ。信長殿をはじめ、先生方の言葉は、この私ルシフェルの言葉と思い、よく学ぶように。そして、一日でも早く、一人前の魔族となれ。以上だ。』
一礼。
体育館中から大きな拍手が起こった。
信長が頭の中で笑う。
(立派じゃった。)
<其方ほどではない。>
(珍しく褒めたのう。)
<……たまにはな。>
勝家は再び台本を確認する。
「続きまして」「ん?校歌?校歌斉唱。」
信長の中のルシフェルが目を丸くした。
<校歌まであるのか?>
(わしが昨日作った。)
<あー、そうだったな。>
前奏など無い。勝家が音頭を取る。
「起立。」「礼。」「一,二の三!」
ベリアルが恐る恐る歌い始めた。周りも続く。
> 麗しき 滋賀の湖畔の 安土城
> 世界の一歩は 近江から
> 学べ 鍛えよ 支配せよ
> ああ 我らは 安土城魔王学園
一番が終わる。信長は満足そうに頷いた。
(なかなか良い歌じゃ。)
<自画自賛か。>
(作詞はわしじゃ。)
<知っておるわ。>
勝家が台本を見た。
「二番。」
全員で歌い始めた。
> 美しき 滋賀の山並み 遠く見て
> 世界の侵略 我らから
> 行くぞ 負けるな 火の玉だ
> おお 我らは 安土城魔王学園
二番が終わる頃には、ゴブリンたちまで「ああー!」だけ元気よく歌っていた。ベリアルが感動している。
「校長。歌える学校っていいですね。」
「じゃろ?」
<昨日まで世界征服しか考えておらんかった男とは思えんな。>
(教育は百年の計じゃ。)
<世界征服は?>
(千年の計じゃ。)
<……その割には思いつきでこんな学校をはじめるとはな。>
(思いつきで世界征服はじめたんは其方じゃ。)
『うっ。』
信長はニヤリと笑った。
勝家は最後の一枚を見た。
「以上をもちまして、安土城魔王学園入学式を終了いたします。」
「各自、掲示板で教室を確認し、速やかに移動してください。」
体育館の壁に張り出された一覧表へ、魔族たちが一斉に走り出す。
「一年一組!」「俺だ!」「特進って何だ!」「補習って何!?」「留年あるの!?」
あっという間に体育館は大混乱になった。信長はその様子を見ながら笑う。
(学校らしくなってきたのう。)
<其方、世界征服する前に胃を壊すぞ。>
(校長とは大変な仕事じゃな。)
二人は同時に笑った。
その頃、安土城高校地下――。
静かだった参謀本部予定地の中央で、六つの巨大な魔法陣がゆっくりと輝き始めていた。
信長は笑みを消す。
(さて。次は教師集めじゃ。)
<違うだろう。作戦会議だ。>
(半分は教師じゃ。)
<……最後まで校長だな。>
魔法陣の光は、さらに強く輝きを増していった。
◇
一方そのころ。
彦根城高校二年二組市島姫乃。
今日は弓道部の日。新入生が部活見学に多数来ている。
そこへ姫乃が入場。弓道部のホープらしい凜とした入場に、ざわついていた道場が一瞬で静まりかえる。正しい姿勢を崩さず、足の裏が床に吸い付くような美しい歩き方。
的を見据える視線はまっすぐで一切ブレない。新入生が口々に「あ、この人上手い」とささやく。
呼吸を整え、弓と矢を持った両手を静かにセット。指先まで神経が行き届いた無駄のない動きで、道場の空気をピンと張り詰めさせる。
弓を頭上に持ち上げる際、肩の力が抜け、まるで大樹が枝を広げるように、大きくなめらかに持ち上げる。
そこから弓を左右に押し開いていく動きは、力みが一切見えず、優雅でありながらも強固なパワーを感じさせる。
弓を引ききった状態で、7秒間完全に静止。極限の静寂が新入生に強い緊張感と期待感を与える。姫乃の胸が大きく開かれ、背筋がまっすぐ伸びた完璧な姿勢を維持している。
矢を放つ瞬間、体全体が十文字にぱっとはじけるように、鋭く力強く両手が開く。
「パンッ!」
という高い弦音とともに、矢はまっすぐに的の真ん中へ。
「ドンッ!」
と誇らしげな的中音があたりに響く。
矢が当たった後も、姫乃は顔の角度、両手の位置、体幹を1ミリも動かさず、彫刻のように美しく静止し続ける。視線は的を見据えたまま、心の中に満ちる気合いを維持している。
「おぉ・・・」
新入生が息を漏らすほどの残身を数秒キープした跡、静かに呼吸をはきながら、何事もなかったかのように弓を元の位置に下ろす。圧倒的な実力者の風格を感じさせる。
「よし!」先輩部員が声をかける。弓道部全体のレベルの高さがうかがえる。
◇
「姫乃先輩かっこよかったぁ。美人だしスタイル抜群だし。弓道も完璧。絶対入部してお姉様って呼ぶんだから!」
「憧れるよねえ、姫乃先輩。同じ人間だと思えないよねえ。」
新入生の申し込みが殺到する弓道部。
しかし、誰も知らない。
市島姫乃の正体を・・・。
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