第28話① 勝利と敗北 前半
ホテルびわ荘。
団欒室。
昨日まで賑やかだった部屋は静まり返っていた。テーブルの上にはノートと教科書。しかし誰一人、勉強に集中できていない。雷太は椅子にもたれ、天井を見上げていた。
「くっそぉ……。全然勝負にならへんかった。」
姫乃も静かに水弓を見つめる。
「私の矢。一%しか効かなかった……。」
タケルは神剣へ視線を落としたまま黙っていた。
(ボソッ)「サインもらい損ねたなあ」
その時。大型モニターが点灯する。
『作戦会議を始めます。』
勇者本部。月夜実。思金子。鴨依絵。菊理加奈。四人が映し出された。
「皆さん。」
月夜実が穏やかに微笑む。
「今日はお疲れ様でした。」
三人は小さく頭を下げる。
思金子が立ち上がった。
「一昨日、今日と、じっくり勝家を観察させていただきました。」
画面には一昨日の映像。河川敷で静かに勇者を待つ勝家。続いて今日。住宅街へ向かう勝家。 二つの映像が並んだ。
「まず皆さんに謝らなければなりません。」
三人は顔を見合わせる。
「一昨日、皆さんを出撃させませんでした。その結果、今日住宅街へ誘導され、戦闘を強要されました。信長はこちらの一手先を読んでいました。」
雷太が俯く。
「やっぱり一昨日戦っといた方が良かったってことかいな?」
思金子は静かに首を横へ振った。
「いいえ。一昨日戦わなかった判断は間違っていません。」
画面が切り替わる。勝家が河川敷で待機している映像。
「一昨日。私たちは勝家を安全に観察することができました。一方、勝家は勇者について、何一つ情報を得られませんでした。」
さらに画面が切り替わる。昨日と今日の勝家の行動が比較表示される。
「一昨日から、戦闘を先延ばしにしたことで、今日、多くのことが分かりました。」
雷太が首を傾げる。
「例えば?」
思金子は画面を切り替えた。
柴田勝家
HP100,000 MP50,000 攻撃30,000 防御20,000 速度15,000 器用10,000
「まず、前提として、柴田勝家の戦闘力のデータです。タケさん、ちゃんと戦闘前に確認してましたね。さすがですね。姫も雷ちゃんもこれからはちゃんと確認してくださいね。」
「いやあ、まあデータの確認は基本だよね。」
「あ、いや、確認してたら逃げてたかも知れんで。強いとは思うたけど、これほどとは思わんかったわ。」
「ああ、そっかあ。雰囲気に飲まれちゃってつい確認するの忘れちゃったわ。でも、私も確認しなくて結果的によかったみたい。これ見てたら戦意なくしてるよ?」
「それでもデータの確認は必ずしてくださいね。では、第一。勝家は、正々堂々と戦う武人です。」
一昨日河川敷で待機。今日真正面から一騎打ち。その映像が映る。
「力で押し切る、力戦型。自ら戦術を大きく変えるタイプではありません。」
姫乃が小さく頷く。
「確かに、奇襲もしなかった。罠も使わなかった。」
「そのとおりです。」
思金子は続ける。
「一昨日、河川敷。今日、住宅街。一見すると、勝家が戦場を変えたように見えます。ですが違います。」
モニターへ信長の姿が映る。
「勝家は、命令に忠実に従っただけです。つまり、戦場を選び頭を使っているのは。」
一呼吸置いて、静かに結論を告げた。
「柴田勝家ではありません。織田信長です。」
団欒室が静まり返る。タケルは小さく息を吐いた。
「信長さん……。僕たちが思っていた以上に、ずっと恐ろしい人なんだ。」
思金子は静かに頷いた。
「はい。勝家は強敵です。ですが本当に警戒すべき相手は、その後ろにいる信長です。」
次回夜19時更新です。
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