第26話② 初任務報告 後半
大型モニターが滋賀県全域の地図へ切り替わる。赤い光点が一つ。ゆっくりと安土城高校から南西へ移動していた。依絵が報告する。
「現在確認されている敵は一体と一匹。安土城高校から南西へ移動中です。」
菊理も続ける。
「魔力反応、非常に高いです。野良魔物とは比較になりません。」
思金子が静かに頷く。
「画面を切り替えてください。」
監視映像へ切り替わる。そこには黒い魔馬へ跨る、一人の武将の姿があった。
巨大な槍。屈強な体。武骨な鎧。
「柴田勝家。」
その名が表示される。タケルが思わず呟いた。
「信長の……右腕。うわあ、かっこいい!あれが勝家さんかあ。憧れるなあ。」
「え?憧れる?タケ、大丈夫ですか?」
「だって勝家さんでしょ?とっても強いんでしょ?」
思金子が頷く。
「戦国最強クラスの武将です。」
雷太は勢いよく立ち上がる。
「ほな!迎え撃とうや!」
しかし。
「いいえ。」
思金子は即座に否定した。
「皆さんは出撃しません。」
「えっ?」
三人が同時に声を上げる。
思金子は勝家の映像を指差した。
「見てください。堂々と姿を現しています。人家を襲う様子もありません。歩く速度も一定。こちらを誘っています。」
タケルが静かに画面を見る。
「つまり……。威力偵察です。皆さんの人数。能力。戦術。それら全てを確認しに来ています。」
雷太が納得できない様子で言う。
「でも戦わんかったら、向こうの思うつぼやないん?」
思金子は首を横へ振った。
「逆です。何も見せないことが、今日一番の勝利になります。」
部屋が静かになる。姫乃が小さく呟いた。
「戦わないことが……勝ち。」
「はい。戦場では、勝つことより、負けないことの方が重要な場面もあります。」
タケルは静かに頷いた。
「向こうが知りたいなら、何も教えない。そういうことですね?」
「そのとおりです。」
月夜実も静かに口を開く。
「本日の出撃は中止します。勇者はホテルで待機。情報収集を優先します。」
三人は頷いた。
◇
安土城高校校長室。
信長は窓の外を眺めていた。
「勝家。」
「はっ。」
武骨な男が一歩前へ出る。
「勇者、どの程度の者か、見てまいれ。」
「承知。」
ルシフェルが静かに尋ねる。
『倒してこないのか?』
信長は首を横へ振る。
「まだ早い。敵も、こちらも、互いを知らぬ。まずは知ることじゃ。」
『ふふっ。やはりお前は信長だな。』
「当然じゃ。天下人とは、戦う前に勝つものよ。」
◇
人気のない河川敷。勝家は魔馬を止めた。辺りをゆっくり見渡す。誰もいない。勇者の姿はどこにもなかった。
「ほう……。」
勝家は小さく笑う。
「出てこんか。」
しばらく待った後、魔馬へ乗り直す。
「そう簡単には誘いに乗って来んか。敵にも軍師がおるようじゃ。」
そう呟くと、静かに安土城高校へ引き返していった。
◇
勇者本部。
依絵がほっと息を吐く。
「帰っていきました。」
菊理も続ける。
「こちらの情報流出ありません。」
雷太はまだ少し不満そうだった。
「結局何もせぇへんかったな。」
思金子は穏やかに微笑む。
「いいえ。今日は皆さんの勝ちです。」
「戦ってへんのに?」
「はい。相手は皆さんを知りたかった。しかし何一つ得られませんでした。こちらは勝家のデータが手に入りました。それだけで十分です。」
タケルは画面に映る勝家の後ろ姿を見つめる。
「でも、いつかあの人とは戦うことになる。会うのが楽しみだなあ。ボソッ(サインもらおうかなあ)」
思金子は静かに頷いた。
「その日までに皆さんはもっと強くなります。」
三人は静かに拳を握った。初めて現れた魔王軍幹部。その姿は、勇者たちの心へ新たな目標を刻み込んだのだった。
次回はお昼12時更新です。
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