第2話② 魔王、社会勉強をする 後半
信長は天井を見上げた。
「……。」
ルシフェルの声が頭の中で響く。
<どうした?>
(いや。)
(其方、世界征服する気あるんじゃろ?)
<ある。>
(勢いだけで来たじゃろ?)
<……。>
(図星か。)
<図星だ。>
信長は思わず吹き出した。
「ぶっ。」
魔族たちが驚く。
「魔王様?」
「いや。何でもない。」
<笑うな。>
(笑うわ。勢いで世界征服始める奴がおるか。)
<結果的にはそうなった。>
(結果的では済まん。)
信長は黒板に大きく書いた。
**情報不足**
「戦はの。敵を知ることから始まる。敵を知らん。地形も知らん。民も知らん。神々も知らん。その状態で勝てると思ったんか?」
全員うつむく。ルシフェルまで黙る。
(怒られとるぞ。)
<我も怒られているのか。>
(総大将じゃからな。)
<そういうものか。>
(そういうものじゃ。)
魔族たちは、魔王が一人でうなずいているようにしか見えない。
「魔王様……。誰と話しておられるので?」
信長は普通に答えた。
「ルシフェル。」
「え?」
「頭の中で。」
体育館が静まり返る。
「結合したんじゃ。一人で二人。便利じゃろ?」
「便利……なんですか?」
「便利じゃ。」
<全然便利ではない。>
(聞こえとる。)
<同じ頭だからな。>
(プライバシーゼロじゃ。)
<其方もだ。>
「……。」
信長は突然動きを止めた。頭の奥が熱い。
断片だけが、一気に流れ込んできた。
「う、うあああああ……。・・・??。!!!!!。」
脳裏に浮かぶ光景。
真っ白な6枚の羽。雨に濡れて彷徨う姿。死にかけの女の子。雷に撃たれる姿。
信長の頬を涙が伝う。
魔族たちは騒ぎ始めた。
「魔王様!」「大丈夫ですか!」
信長は涙をぬぐわない。静かに前を向いたまま、小さくつぶやく。
「ルシフェル。」
<……何だ?>
「其方、ずっと一人で苦しんできたんじゃな。」
ルシフェルは返事ができなかった。その一言だけで十分だった。信長はそれ以上聞かない。何があったのかも。誰が悪かったのかも。
何も聞かない。
ただ、その孤独だけは理解した。
<……。>
(何も言わんでええ。まだ話したくないこともあるじゃろ。)
<……ああ。>
しばらく沈黙が流れた。やがて信長は涙を拭く。
「よし。」「泣くのは終わりじゃ。」「ルシフェル、其方を勝たせてやる!」
切り替えが早かった。
『・・・いいのか?お前の子孫たちを傷つけるかもしれんのだぞ?』
「ふっ、今更じゃ!」
魔族たちは信長の独り言についていけない。
「まず組織改編じゃ!諜報部隊を作れ!戦略班!食料班!兵站班!結界維持班!魔物統制班!」
黒板がみるみる埋まっていく。
<そこまで必要か。>
(必要じゃ。魔物も飯を食う。)
<……そうなのか。>
(其方、考えてなかったじゃろ。)
<考えてなかった。>
(駄目じゃ。)
<反省する。>
信長は思わず笑った。
「素直じゃの。」
<其方ほどではない。>
(誰がじゃ。)
<未来で自販機を三十分眺めていた男が。>
(忘れろ。』
<コピー機にも感動していた。>
(忘れろと言うとる!)
信長は思わず一人で赤くなる。魔族たちは首をかしげる。
「魔王様?」「顔が赤いですが。」
「何でもない!」
<面白い。>
(笑うな。)
<昨日一日は其方に振り回された。>
(楽しかったじゃろ。)
<……少しな。>
(少しか?)
<かなりだ。>
信長は思わず笑った。
(素直じゃな。)
<其方が言うな。>
二人は同時に笑う。
外から見れば。
信長が一人でニタニタ笑っているだけだった。
魔族の一人が小声でつぶやく。
「魔王様。」「一人なのに、楽しそうですね。」
信長は黒板を叩いた。
「さて。軍議の続きを始めるぞ。」
<今度は我も参加しよう。>
(最初から参加せい。)
<昨日は寝ていた。>
(寝るな、総大将。)
<疲れていたのだ。>
(魔神も大変じゃの。)
<其方のせいだ。>
(それは否定できん。)
二人はまた笑った。
その笑い声は、一つの体から聞こえているはずなのに、不思議と二人分に聞こえる気がした。
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