第17話② 知略戦開幕 後半
一方その頃。
安土城魔王学園校長室。
諜報部長が一礼し、新たな報告書を信長へ差し出した。
「校長。」
「県内の神聖結界について、ご報告いたします。」
「申せ。」
「現在確認された神聖結界は三十七か所。うち三か所の解除になんとか成功しました。」
信長は静かに頷く。
「成果は?」
「特にありません。」
「……。」
「重要施設。重要人物。いずれも確認できませんでした。さらに解除した翌日には、新たな結界が複数確認されています。」
ルシフェルが小さく笑う。
《増えておるな。》
「そのようです。」
諜報部長は滋賀県地図を広げた。住宅街。神社。学校。公園。山中。結界は無秩序に増え続けているようにしか見えない。信長は腕を組んだ。
「勝家。」
「はっ。」
「どう見る?」
勝家は地図を見つめる。しばらく考えた後、静かに答えた。
「判断できませぬ。守りたい場所を守っているのか。あるいは全て囮か。全く見当が付きませぬ。」
信長は満足そうに頷いた。
「その答えで良い。分からぬものを分かったふりする方が危険じゃ。」
信長は報告書を閉じた。
「結界への干渉はしばらく中止じゃ。」
勝家が顔を上げる。
「しばらく……ですか。」
「うむ。」
「今は優先順位が低い。意味も分からぬ結界を追っても敵の思う壺じゃ。まずは情報を集めよ。」
「承知いたしました。」
◇
諜報部長が次の資料を差し出す。
「続いて、勇者候補についてです。」
信長は資料を受け取る。
そこには数十名の名前と写真が並んでいた。
「現在、勇者候補と推定される人物は五十七名。」
勝家が思わず眉をひそめる。
「五十七?」
「はい。全員ほぼ同等の霊力反応を確認しております。」
ルシフェルが吹き出した。
《そんな訳があるまい。》
信長も小さく笑う。
「当然じゃ。勇者が五十七人もおる訳がない。」
資料を机へ置く。
「撹乱じゃ。敵にも良い軍師がおるようじゃな。」
勝家が頷く。
「本物を隠すため、偽物を増やしたのですな?」
「恐らくの。こちらが勇者を探すことまで最初から読んでおる。」
ルシフェルが楽しそうに笑う。
《面白い。まだ姿も見せぬ相手に、ここまで備えるとは。》
信長も静かに笑った。
「戦とは。相手が動いてから始まるものではない。動く前にどれだけ備えたかで決まる。」
◇
信長は静かに立ち上がる。
「諜報部。」
「はっ。」
「勇者候補は監視だけ続けよ。追うな。刺激する必要はない。本物はいずれ自ら動く。その時を待つ。」
「承知いたしました。」
諜報部長は深く一礼し、校長室を後にした。
◇
窓の外では補習中のゴブリンたちの元気な声が聞こえてくる。
「ににんがし!」「にさんがろく!」「先生ぇ!」「また忘れました!」
ベリアルが苦笑する。
「慌てなくて大丈夫です。九九は逃げませんから。」
信長はその声を聞きながら微笑んだ。
「敵も育て。こちらも育てる。急いて天下は取れぬ。」
ルシフェルは窓の外を眺めた。
《知略戦とは。存外、気の長いものよな。》
「それで良い。待てる者が。最後に勝つ。」
天下人と姿なき軍師。互いに顔も知らぬまま知略の一手一手だけが、静かに盤上へ並べられていった。
次回はお昼の12時更新です。
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