第13話② 野良魔物事件 後半
午後七時。
全国ニュース。
キャスターが緊張した表情で原稿を読み上げていた。
「滋賀県内で相次ぐ野良魔物による被害。本日確認された人的被害は三件。警察、自衛隊は引き続き対応を続けています。」
画面には、壊れたパトカーや避難する住民の映像が流れる。その一方で。
インターネット上では、全く違う世界が広がっていた。
『オークかわいそう(T_T)』
『オークにも生きる権利があります。』
『オークの人権を守れ!』
『共生社会なんだから、オークにも住みやすい社会を!』
『オークは友達。』
『話し合えば分かる。』
『撃つなんてひどい。』
『オークって絶対美味しそう。』
『どこで食えるの?』
『オークカレーまだ?』
『ジビエ認定はよ。』
『オーク女子っているの?』
『うちでも飼いたい。』
『ペットショップまだですか?』
『うちの近所にも一匹欲しい。』
コメントは、毎秒何百件という勢いで増え続けていた。
◇
安土城魔王学園校長室。
諜報部長が静かに報告書を差し出した。
「校長。人間側の世論です。」
信長は一枚ずつ丁寧に目を通す。
時折小さく笑う。
ルシフェルが不思議そうに尋ねた。
《何がおかしい。》
信長は報告書を閉じた。
「人とは。実に面白い生き物じゃ。」
《ほう?》
「同じオークを見ても。守れと言う者。討てと言う者。食いたいと言う者。飼いたいと言う者。全部おる。」
ルシフェルは思わず吹き出した。
《悪魔より混沌としておるな。》
信長も笑う。
「そうじゃ。じゃから。天下を治めるのは難しい。力だけでは足りぬ。民の心も読まねばならん。場合によっては世論を扇動せねばならん。」
諜報部長が感心したように頷いた。
「だから。世論まで調べさせていたのですね。」
「当然じゃ。民が何を恐れ、何を望み、何を信じるか。それを知り、操ることもまた戦じゃ。」
ルシフェルは腕を組んだ。
《魔界には無い考え方だな。魔界では、力あるものがとにかく全てを決め、全てを動かす。》
「魔界は力。人間界は心。似ておるようで全く違うのう。」
◇
諜報部長が退室すると、校長室は静かになった。信長は机の引き出しから一冊のノートを取り出す。表紙には大きく書かれていた。
**一年一組 授業計画**
ルシフェルが思わず呆れる。
《おい。外では国家規模の騒ぎだぞ。何を始める。》
信長は真剣な顔でノートを開いた。
「明日の授業じゃ。」
《……。》
「九九は。どう教えたら分かりやすいかのう。」
《其方は本当に校長になったのだな。》
「当たり前じゃ。校長じゃからの。」
信長は黒板へ向かう。
一、二、三……
「いや。まずは掛け算とは何かから説明せねばならんか。」
ぶつぶつと独り言を言いながら授業を考え始めた。
その頃日本中のテレビでは、結界事件がトップニュースとして報じられていた。
しかし、誰一人として知らなかった。
日本最大の危機のど真ん中で――
大魔王が、翌日の算数の授業に頭を悩ませていることを。
次回夜19時更新です。
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