第12話② 秘密の特訓 後半
彦根。
市島家。
姫乃は机いっぱいにノートを広げていた。
タイトル。
**水霊術研究ノート**
「昨日は。十個まで成功。今日は二十個。」
右手を前へ出す。
「水。」ぽちゃん。ぽちゃん。ぽちゃん。次々と水玉が浮かび上がる。
「十一。」「十二。」「十三……。」
二十個。
「できた!」
姫乃は嬉しそうに拍手した。
「次。」「前へ飛ばす。」
人差し指を前へ向ける。
「えい。」ピュッ。
一直線。
「成功。」
ノートへ書く。
**二十個同時制御成功。**
**直進速度アップ。**
「次。」「カーブ。」右へ。左へ。くるん。
「できた!」
今度は。
「回転。」水玉が高速回転を始める。ブーン。
「おぉ!」
姫乃の目が輝く。
「何か。威力ありそう。」
その時。
パァン!と水玉が弾けた。
机のノートが全部びしょ濡れ。
「きゃーー!」
慌てて拭く。
「失敗も書かなきゃ。」
ノート。
**高速回転は制御困難。**
「研究って。大変だなぁ。」
その時、突然頭の中に声が。
《水天月!と叫んでご覧なさい?》
「え?神様?す、水天月!」
すると、水でできた弓が顕現した。
《それが弓型。薙刀!と言ってご覧なさい?》
「な、薙刀!」
すると弓が瞬く間に薙刀の形に切り替わった。
《弓と薙刀。どちらもあなたが子供の頃から精進してきたものです。特に弓。矢をつがえなくともどんどん水の矢がつがえられます。無尽蔵に。》
「凄い。水の矢がほんとにできた!しかもとっても軽い。普通の弓矢よりずっと楽ちんだわ。引き絞ってもほとんど力がかからないけど、これで矢が飛ぶの?」
《問題ない。弓矢よりよっぽど飛ぶ。スピードも距離も断然こちらの方がよい。しかも練習すればするほどスピードも距離も伸びていく。》
「こんなとんでもない神具まで。ほんとに有り難うございます。こりゃ、頑張って練習しなくちゃ。」
《ふふふ、じゃあ頑張ってね》
◇
一方。
草津。草津川跡地。
雷太は相変わらず全力疾走していた。
「九十八!」「九十九!」「百!」
腕立て伏せ。スクワット。ダッシュ。全部終わる。
「よし!」「雷!」パチッ!
「弱い!」「もう一回!」パチパチッ!
「まだや!」
その様子を、武甕槌神が腕を組んで見ている。
《真面目じゃのう。》
「当たり前や。早よおっちゃんと勝負したいねん。」
《……。まだおっちゃんと言うか。》
「神様やけど。おっちゃんや。」
武甕槌神は豪快に笑った。
《まあ、好きに呼べ。勝てたら褒めてやる。》
「よっしゃ!燃えてきた!」
雷太はさらに走り出す。
「雷!」パチッ!
「雷!」パチパチッ!
「雷!」バチッ!
今までで一番大きな火花。
「おぉ!強なっとる!」
嬉しそうに飛び跳ねる。
《雷槍!と叫んでみい。》
「え?雷槍?」
すると、右手に雷をまとった槍が顕現した。長さは三メートルぐらい。
「え??どこから出てきたん?どないなってんの?」
《わしからの贈り物じゃ。大切に使え。》
「あ、ありがとう、おっちゃん!」
《頑張って練習するのじゃぞ。》
「ああ、わかっとる。これで練習にも気合いが入るわ。」
《フフフ、それではな。》
◇
同じ頃。
タケル。
マンガ。ゲーム。参考になりそうなスキルをすべて調べ上げていた。
姫乃。
ノート。できること、やりたいこと、水の性質、性質を利用した応用技の可能性、などなど。
二人とも研究していた。
一方。
雷太。
「筋トレ!」「ランニング!」「雷!」「もう一回!」
武甕槌神は空を見上げる。
《……。あやつだけ。研究方法がおかしいような・・・?》
◇
その夜。
建部大神。
市杵島姫命。
武甕槌神。
三柱の神が静かに空から三人を見守っていた。
建部大神。
「タケルはコピーする能力がある。見たものをすぐにそのまま真似できてしまう。だから、マンガやゲームが先生じゃ。」
市杵島姫命。
「姫乃は工夫しますね。あと研究も。」
武甕槌神。
「雷太は考えずに走る。」
二柱が吹き出した。
建部大神。
「脳筋じゃの。」
市杵島姫命。
「それぞれ皆良い子ですね。」
三柱は優しく微笑む。その視線の先には、まだ互いの存在を知らない三人の勇者。
そして。
安土城魔王学園校長室。
信長は校内放送を聞きながら満足そうに頷いていた。
「一年一組。」「今日は全員、あいうえお合格じゃ。」
ルシフェルは思わず笑う。
《人類最後の希望は未だ現れず。魔王軍はひらがな。妙な世界になったものだ。》
信長は湯飲みを置いた。
「教育とは、積み重ねじゃ。」
夜の安土城に、ゴブリンたちの元気な声が響いていた。
「ギャーー!」「イカの足ぃ!」
平和な一日だった。
**次回 野良魔物事件**




