閑話② マブダチ
「またおまえさんかいな。」
立木神社中学校の体育館。
練習試合のために集まった選手たちの中で、武見雷太は思わず笑った。
コートの向こうには見慣れた顔。
建部大社中学校の大和タケルだった。
「今度はバスケか。」
「君も?」
「俺は助っ人や。」
「ボクも。」
二人は顔を見合わせて笑う。
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それから数週間後。
今度はサッカーの練習試合。
「……またおまえさんかい!」
「まただね。」
「一体いくつ部活掛け持ちしとるんや?」
「いや、掛け持ちじゃないよ。人数足りないから今回だけって頼まれて。」
「なんや、おまえさんもかいな。」
雷太はニヤリと笑う。
「俺も毎回それや。」
そう言って右手を差し出した。
「俺は雷太。武見雷太や。よろしゅう頼むわ。」
「ボクは大和タケル。よろしくね。」
握手。
「しかし、よう会うなあ。」
「そうだね。」
「それにサッカーもバスケもうまいやん。何年やっとる?」
「いや、見よう見まねだよ。」
「は?」
「そんなにやってない。」
「……嘘やろ。」
どう見てもチームの中心選手だった。
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試合後。
雷太は突然切り出した。
「タケル。」
「ん?」
「いっぺん俺と勝負してみいひん?」
「勝負?勝負って?」
「勝負言うたら勝負や。」
ニヤリと笑う。
「顔面と急所は禁止。それ以外は何でもあり。参った言うか、立てんようになったら負けや。」
「うーん……。」
タケルは少し考えた。
「やってもいいけど。ただ?ただでやるのはちょっとね。」
「んーほな、俺が負けたら何でも一つ言うこと聞いたるわ。」
「ボクが負けたら?」
「俺が誘ったんや。今回はいらん。」
雷太は親指で武道場を指した。
「ちょっと借りるか。」
「わかった。」
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向かい合う二人。
雷太は構えた。
しかし。
(……なんやこれ。)
タケルの構えはどう見ても素人だった。
「なんやタケル素人やったんか。」
「気にしなくていいよ。どんどん来て。」
「ほんまにええんやな?」
「うん。」
「ほな、抑え気味でいくで。」
雷太が踏み込む。タケルは受ける。ぎこちない。やはり素人。
……のはずだった。
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五分後。
(……なんや。)
十分後。
(おかしい。)
十五分後。
(こいつ……。)
雷太の額に汗が浮かぶ。
(どんどんうまなっとる。)
受け。間合い。崩し。返し技。さっきまで出来なかったことを、当たり前のようにやり始める。
(まさか。俺の技を……見て覚えとるんか!?)
背筋が寒くなる。十年間努力して積み上げた技術。それをたった十分で。
(あかん。長引いたら負ける。負ける……?この俺が負ける?)
焦りが雷太の全身を支配した。次の瞬間。
バシィッ!!
雷太の当て身が、タケルの顎を正確に捉えた。
「っ!」
タケルはその場に崩れ落ちる。
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静寂。
雷太は自分の拳を見つめた。
「……くっ。俺の負けや。」
タケルが顔を上げる。
「え?」
「顔面は禁止やった。」
「いや。」
タケルは笑った。
「当て身だからセーフだよ。ボクの負け。」
「なんでや!顔面やぞ!」
タケルは首を横に振る。
「実戦なら顔面も急所も狙われて当然。やられたボクが悪い。だから負けだよ。」
雷太はしばらく黙っていた。やがて頭をかきながら笑う。
「……しゃあないな。ほな、引き分けや。それなら文句ないやろ?」
タケルも笑った。
「うん。引き分け。」
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雷太は豪快に笑った。
「しかしビックリしたわ。この俺にここまで本気出させたんは、おまえが初めてや。」
タケルも少し照れくさそうに笑う。
「ボクも。今まで何やっても、本気になれなかった。初めて本気で戦えたよ。」
雷太は目を丸くした。
「なんや。タケルもかいな。ほな俺ら、似たもん同士や。」
雷太は勢いよく手を差し出す。
「どや。俺ら、マブダチにならへんか?」
タケルは迷わずその手を握った。
「ありがとう。ボクからもお願いするよ。」
雷太は満面の笑みを浮かべる。
「よっしゃ!これから俺らはマブダチや!!」
雷太はガシッとタケルの肩を組む。タケルも笑いながら肩を組み返した。本気でぶつかり合える相手。それは二人にとって、初めて見つけた「親友」だった。
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