第10話① 立木神社 前半
日曜日。朝。
武見雷太は、草津川跡地公園の遊歩道を軽快な足取りで走っていた。春の風が心地よい。
武見雷太。石山寺高校2年生。背は185センチくらい。武道を一通りやっているだけあって、がっしりとした体つき。見た目は金髪に左耳にピアス。かっこいい顔つきながら一見して近寄りがたい雰囲気がある。
「ええ天気や。」
額の汗をタオルで拭きながら、さらにペースを上げる。ランニングは毎週の日課だった。草津川跡地を走り、そのまま立木神社へ参拝する。中学生の頃から続けている習慣である。雷太は幼い頃、鹿島神宮保育園へ通っていた。小学校は春日大社小学校。そして中学から草津へ移り住み、立木神社中学校へ入学した。それ以来、立木神社は毎日のように通う場所になった。
今日もいつもどおり。参道を歩き、本殿の前へ立つ。二礼二拍手一礼。
「武甕槌様。今日もよろしくお願いします。」
その瞬間だった。
ゴロゴロ……
空一面へ黒い雲が広がる。
「ん?」
バチィッ!!
一本の雷が境内へ落ちた。
「うおっ!」
眩しい光。雷太は反射的に身構える。ゆっくり目を開く。目の前には、一人の大男が腕を組んで立っていた。
立派な髭。鋭い眼光。全身を雷が走っている。
雷太はしばらく見つめた。
「…………。おっちゃん。」
男の眉がピクリと動く。
「お、おっちゃん?神様に向かって、おっちゃんとは何じゃ!」
雷太は首を傾げる。
「神様?あの?あの神様?」
「そうじゃ!」
「例の?」
「例のじゃ!」
「間違いなく?」
「ええい!疑いすぎじゃ!」
男は胸を張る。
「武甕槌じゃ!」
雷太は満面の笑みになった。
「分かった分かった。いやぁ!会いたかったわ!」
武甕槌神は少し拍子抜けした。
「もっと驚かぬのか?」
「いや。十分驚いとる。でも昔から会ってみたかったし、そっちの方が勝った感じやな。」
武甕槌神は思わず笑った。
「変わった若者じゃ。」
「で。何の用?」
武甕槌神は咳払いを一つする。
「お主へ。加護を授けに来た。」
雷太は腕を組む。
「加護?」
「そうじゃ。近いうちにそなたは大きな役目を担う。そのための力じゃ。」
雷太は少し考えたあと、にやりと笑った。
「受けたってもええ。」
「ほう。」
「ただし。条件が一つある。」
「何じゃ。」
雷太は拳を握り締めた。
「俺と勝負や!」
武甕槌神は目を丸くした。
「……何?勝負。」
「武の神様やろ?小さい頃からいっぺん本気で勝負したかってん。」
武甕槌神は豪快に笑う。
「はっはっは!武を望むとは。さすが武甕槌を祀る神社へ毎日通う男じゃ!」
「しかし。」
「話にならん。神と人間では勝負にならぬ。」
雷太は真っ直ぐ武甕槌神を見る。
「分かっとる。それでもや。頼む。受けてくれたら、何でも言うこと聞く!」
武甕槌神はしばらく黙っていた。そして楽しそうに笑った。
「よかろう。一手指南してやろう。人間と勝負するなど、何時ぶりかのう。」
雷太は嬉しそうに構えた。
「ええか?ほな行くで。」
「おりゃあああぁぁぁ!」
次回お昼の12時更新です。
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