第8話① 建部大社(前半)
夕暮れ。
建部大社。
学校帰りの大和タケルは、一人石段を登っていた。
大和タケル。膳所城高校2年生。背は180センチに少し届かないくらい。細いが筋肉質でもある。見た目優しそう。いわゆるイケメンである。
「……何だろ。今日は、どうしても来なきゃいけない気がした。」
理由は分からない。朝からずっと胸がざわついている。何かに呼ばれているような。そんな不思議な感覚だった。いつもなら友達と帰る時間。それなのに今日は自然と足が建部大社へ向かっていた。
拝殿の前へ立つ。
二礼。二拍手。一礼。
「いつもありがとうございます。」
静かに目を閉じる。その瞬間だった。風が止んだ。鳥の声も。木々の葉音も。世界中の音が消えた。
「……え?」
ゆっくり目を開ける。目の前が金色に輝いていた。光の中から、一人の男が歩いてくる。
長い黒髪。白い狩衣。どこか懐かしい笑顔。
「久しいな。」
タケルは固まった。
「…………。」
「え?誰ですか?」
男は優しく笑う。
「そうか。お主には初めてであったな。」
「我が名は。建部大神。」
「…………。…………。えええええぇぇぇぇぇぇぇ!!」
思わず後ろへ飛び退く。
「神様ぁぁぁぁ!?そんな普通に出てくるの!?」
建部大神は困ったように笑う。
「驚かせてしまったか。」
「いや!」
「普通驚くよ!神様って本当にいたんだ!」
「おる。」
「そんな当たり前みたいに!」
建部大神は咳払いを一つした。
「今日は。お主へ加護を授けに来た。」
「加護?」
「そうじゃ。」
「近いうち、お主は大きな使命を背負う。その時のためじゃ。」
タケルは首を傾げる。
「使命?何をするんです?」
「まだ話せぬ。」
「じゃあ。断ります。」
建部大神。
「…………。」
「え?知らない仕事は受けません。ブラック企業かもしれないし。」
建部大神は完全に固まった。
「ぶ、ブラック……?」
「仕事内容も給料も聞かずに契約なんて。危ないですから。」
建部大神は額へ手を当てた。
「今どきの若者とは難しいのう……。」
タケルは真剣だった。
「だって。世界を救えとか言われても、急に言われても困るし。」
建部大神は目を丸くする。
「まだ世界を救えとは言っておらぬぞ。」
「え?」
「え?」
二人とも固まった。数秒後。建部大神は苦笑した。
「話が飛び過ぎじゃ。」
「ご、ごめんなさい。」
「思い込みでした。」
「漫画の読み過ぎじゃな。」
「はい。」
建部大神は笑いながら頷いた。
「では改めて。」
「お主へ。」
「加護を授けたい。」
「受け取ってくれるか?」
タケルは少しだけ考えた。
「……。」
「危ない仕事じゃない?」
「少なくとも。今は。」「いや。」「たぶん。」「きっと。」「おそらく。」「……大丈夫じゃ。」
「最後ちょっと不安!」
建部大神は思わず笑った。
「安心せい。お主を不幸にはせぬ。」
その言葉だけは、不思議と信じられた。
タケルはゆっくり頷く。
「……分かりました。受け取ります。」
建部大神は満足そうに微笑んだ。
「その言葉を。待っておった。」
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