第7話① 野良魔物捕獲作戦(前半)
四月二十四日。午前八時。
安土城魔王学園。校長室。
信長は朝のお茶をすすりながら、勝家から提出された報告書へ目を通していた。
「校長。諜報部より新たな報告です。」
勝家が一礼する。
「申せ。県内各地で野良ゴブリン、野良オークの目撃情報が相次いでおります。」
信長は静かに頷いた。
「やはり出たか。」
頭の中でルシフェルが口を開く。
《野良とは何だ。》
(結界発生の混乱で散り散りになった魔物どもじゃ。)
《其方の部下ではないのか。》
(違う。他人事のように言うな。貴様がきちんと管理してないからこういうことになるんじゃぞ。今はもう命令も届かぬ。)
《放置すれば?》
(魔王軍の評判まで悪くなる。)
勝家が報告を続ける。
「農作物への被害。家畜への被害。人への軽微な襲撃。県警、自衛隊も対応を始めたようです。」
信長は報告書を閉じた。
「民を敵に回す訳にはいかぬ。保護する。」
ルシフェルが驚く。
《討伐ではないのか。》
「教育できる者は教育する。従わぬ者だけ討つ。」
《……学校らしい答えだな。》
信長は立ち上がった。
「勝家。」
「はっ。」
「教頭の仕事はベリアルへ任せよ。今日は武将に戻れ。」
勝家の目が少しだけ輝いた。
「承知。」
信長はゆっくりと勝家を見る。
「初陣じゃ。校長としての初命令でもある。頼んだぞ。」
勝家は拳を胸へ当てる。
「御意。一匹残らず連れ戻してまいります。」
「討ち取るのではないぞ。なるべき連れ戻すのじゃ。」
「はっ!」
勝家は勢いよく部屋を出ていった。その背中を見送りながら、ルシフェルが小さく笑う。
《忠臣だな。》
(あやつほど忠義に厚い男はそうおらぬ。)
《悪魔にしておくには惜しい。》
(いずれ帰す。)
《そのために勇者を育てるのか。》
信長は静かに頷いた。
(そうじゃ。)
◇
校庭。
勝家の前へ、保護部隊が整列していた。ベリアル。数名の上級悪魔。中級悪魔部隊。そして荷車には、大量のイカの足。勝家は思わず二度見した。
「……ベリアル。」
「はい。」
「何じゃこれは。」
「保護用です。ゴブリンはイカの足が大好きですので。」
「…………。」
勝家は空を見上げた。
「戦へ向かうのではなかったか。」
「はい。」
「保護作戦です。」
「…………。」
ルシフェルが吹き出した。
《戦国時代には無かった戦い方だな。》
信長は腕を組む。
(教育とは工夫じゃ。)
《イカの足で釣るのか。》
(その方が平和じゃ。)
勝家は諦めたように槍を肩へ担ぐ。
「出発!」
「おー!」
荷車いっぱいのイカの足を積んだ保護部隊は、堂々と安土城魔王学園を出発した。
一方その頃。滋賀県内では、一匹の野良ゴブリンが、畑で大根をかじっていた。
「ギャ♪」
農家のおじさんが振り向く。
「……おい。またお前かぁぁぁぁ!」
ゴブリンは大根を抱えたまま、一目散に逃げ出した。
その先には――槍を構えた柴田勝家が立っていた。
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