第6話③ エピローグ ―結界事件対策本部―
四月――。
安土城高校結界発生から三日。
滋賀県警察本部。大会議室。
入口には大きな看板が掲げられていた。
**安土城高校結界事件対策本部**
部屋には県警本部長をはじめ、機動隊、自衛隊、消防、県庁危機管理監らが集まっていた。正面スクリーンには、安土城高校を覆う黒い結界が映し出されている。
「状況を報告してください。」
機動隊長が立ち上がる。
「隊員による接近を三十八回試みました。」「全て失敗。」「結界へ触れた瞬間、強制的に弾き返されます。」
続いて陸上自衛隊。
「重機による突破も試みました。」「結果は同じです。」「砲撃も検討しましたが、校内には教職員・生徒が取り残されている可能性が高く、実施しておりません。」
会議室は重苦しい空気に包まれた。県警本部長が静かに口を開く。
「現在をもって、滋賀県警察本部安土城高校結界事件対策本部を正式に設置する。」
「自衛隊も本日付で共同対応に入ります。」
全員が頷いた。
◇
同時刻。
滋賀県庁。
知事が緊急記者会見を開いていた。無数のカメラのフラッシュ。
「県民の皆様。現在、安土城高校では原因不明の結界現象が発生しております。県警、自衛隊、政府と連携し、全力で対応しております。県民の皆様には、冷静な行動をお願いいたします。」
質問が飛ぶ。
「知事!」「原因は何ですか!」「テロですか!」「宇宙人ですか!」
「現時点では分かっておりません。」
◇
その頃――。
安土城魔王学園。
校長室。諜報部長が静かに報告書を差し出した。
「校長、人間側の動きが判明しました。」
信長は報告書を受け取り、一枚ずつ目を通す。
「ほう。県警。自衛隊。県庁。対策本部まで立ち上げたか。」
頭の中でルシフェルが笑う。
《随分な騒ぎになっておるな。》
(当然じゃ。)
《慌てぬのか。》
(慌てる必要がない。)
信長は最後の一枚を机へ置いた。
「諜報部。引き続き、人間側の動きを監視せよ。こちらから手は出すな。民を刺激する必要はない。」
「はっ。」
諜報部長は一礼して部屋を後にした。ルシフェルが静かに尋ねる。
《しかし、そのうち攻めて来るぞ。》
信長は窓の外に広がる夕焼けを見つめながら、小さく笑った。
(分かっておる。じゃが、まだ早い。)
《何がだ。》
(今は、学校を作る方が先じゃ。)
校舎のどこかから、元気な声が聞こえてきた。
「ギャーー!」「先生ぇ!」「イカの足ぃ!」
信長は苦笑する。
(まずは、あやつらを一人前に育てねばの。)
その頃。滋賀県警では、誰一人として知らなかった。
日本中を揺るがす未曾有の事件の中心で――
大魔王が、ゴブリンへ「あいうえお」を教えていることを。
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