ショートコント ノブ&ルー② 羽を伸ばす(★イラスト有)
いやあ、仕事も一段落ついたし、今日は羽を伸ばしてみるとするかのう。」
《羽が欲しいのか。ほら。》
バサァッ!
信長の背中から、突然、巨大な黒い翼が生えた。
「え?」
信長は何度も背中を振り返る。
「なんとまあ。本当に羽が出てきよったわい。」
《違うのか? 空を飛びたいのであろう?》
「いや、『羽を伸ばす』というのは、ゆっくり休むという意味でじゃな……。」
《なんだ。紛らわしい言い方をするな。》
「わしが悪いのか?」
《だが、せっかくだ。飛んでみるか?》
「ん? まあ、飛べるのであれば、そのうち飛んでみたいがのう。」
信長は背中の翼を恐る恐る動かした。
バサッ。
風圧で、机の上の書類が一斉に吹き飛ぶ。
「おおっと!」
《室内で動かすな。》
「先に言わんか!」
信長は床に散らばった書類を拾いながら、翼を見上げる。
「しかし、慣れとらんのに墜落して死ぬのはごめんじゃのう。」
《そんな心配はないぞ。我がついておるのだ。万が一にも落ちることはない。》
「ほう。」
《それに、落ちたところで傷一つ付かん。》
「なんじゃ、それを先に言え。それなら、飛んでみたいのう。」
信長は少し考えてから、手を打った。
「そうじゃ。ルーちゃんは、姿を消すこともできるのか?」
《それくらいたやすいぞ。》
「本当か?」
《我の力で存在感を消せば、誰にも見つからん。だが、何をする気だ?》
「城の周りを見て回りたいのじゃ。」
《城の周り?》
「転移で遠くには行っておるが、すぐ近くはまだ見ておらんじゃろ?」
信長は窓から外をのぞく。
城門の周囲には、今日も大勢の人々が集まっていた。
「普通に出れば、今も野次馬が取り囲んでおるしのう。」
《あれは、ただの野次馬ではないと思うがな。》
「違うのか?」
《警察、自衛隊、報道陣、研究者、歴史愛好家、信長ファン、動画配信者などだな。》
「わし、どれだけ人気者になっておるのじゃ?」
《知らん。》
信長は再び外を眺め、何かを思いついたように振り返った。
「あ、そうじゃ。姿はどれくらい変えられるのじゃ?」
《まったくの別人にもなれんことはないが、あまり得意ではない。》
「ほう。」
《だが、信長自身を若い姿にする程度なら簡単だぞ。》
「ええええっ!?」
信長の目が輝いた。
「それは本当か!? 試しにやってみせてくれんか? ほれ、早う!」
《ええい、急かすな。》
ルシフェルが力を使う。信長の姿が光に包まれた。
《ほら。これでどうだ。》
鏡に映っていたのは、二十代ほどの若々しい信長だった。髪は黒く、肌には張りがあり、精悍な顔つきをしている。
「おおおおお!」
信長は鏡の前で右を向き、左を向き、何度も自分の顔を確かめた。
「凄いではないか! 若い! 肌もつやつやじゃ!」
《喜ぶところは、そこなのか?》
「これなら、誰もわしを信長とは思わんじゃろ!」
《転移してしまえば、誰もお主を本人だとは思わんだろうな。》
「よし。これは時々使うことにしよう。」
《何をする気だ?》
「若者に交じって遊びに行く。」
《ろくなことを考えておらんな。》
「で、ほかにはどうじゃ?」
《ほか?》
「ほかの姿にもなれるのじゃろ?」
《まあ、ないことはないが……。》
「何になれるのじゃ?」
《…………》
「ん? なぜ黙っておる?」
《我だ。》
「我?」
《我自身の姿だ。》
信長の顔が、さらに輝いた。
「おおおお! ぜひなってみてくれ!」
《嫌だ。》
「なぜじゃ!」
《なんとなくだ。》
「よいではないか。減るものでもなし。」
《仕方ない。》
ルシフェルは、しぶしぶ力を使った。
再び信長の身体が光に包まれる。光が収まる。そこには、長い髪と整った顔立ちを持つ、絶世の美女が立っていた。信長は言葉を失う。
《どうした?》
「おおおおお……。」
《なんだ。》
「凄い。」
信長は、頭の先から足元までじっくり眺めた。
「ルーちゃん、そなた、めちゃめちゃ美人ではないか。」
《そ、そういうお世辞はよい。》
「いや、世辞ではない。」
信長は真顔で言い切った。
「顔もよい。肌も美しい。しかも、ぷろぽーしょんとやらも抜群じゃ。わしが見た中で最高かもしれん。」
《もうよい!》
女性の姿になった信長――いや、ルシフェルの姿をした信長は、顔を真っ赤にした。
「世辞で言うておらんことは、ルーちゃんが一番分かっておるじゃろ?」
《なぜだ。》
「何しろ、わしらは互いにプライバシーがゼロじゃからな。」
《も、もう分かったから、その話はよせ!》
「しかし、ルーちゃんが人間なら、わしは絶対に放っておかんがのう。」
《黙れ。》
「ん?」
信長は、ふと首をかしげた。
「そういえばルーちゃん、男と付き合った経験が――」
ゴボォォォォッ!!
信長の拳が、信長自身の脇腹へとめり込んだ。
「ぐぼおおおおおおっ!?」
信長はその場に崩れ落ちた。
《それ以上言うことは許さん!》
「いや、ちょっと待て……。」
信長は腹を押さえながら、涙目で抗議する。
「いきなり自分で自分を殴らんでもよいではないか!」
《我の身体だ!》
「今はわしの身体じゃろ!」
《姿は我だ!》
「どちらでもよいわ! 痛いのはわしじゃ!」
《次に余計なことを言ったら、急所を蹴る。》
信長は両手で股間を守った。
「それだけはやめてくれえ!」
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