第5話② ゴブリン一年一組(後半)
一時間目終了。校舎中にチャイムが鳴り響いた。
キーンコーンカーンコーン……
ゴブリンたちは一斉に立ち上がる。
「ギャーー!」
「休み時間です!」
ベリアルが叫ぶ。
「廊下は走らない!」
ゴブリンたちは全力で廊下へ飛び出した。
「だから走るなぁぁ!」
信長は廊下でその様子を眺め、腕を組んだ。
(元気でよろしい。)
頭の中でルシフェルが呆れた声を出す。
《今のは褒めるところか?》
(若いうちは元気が一番じゃ。)
《廊下を走っておるぞ。》
(あとで教える。)
《校長とは大変だな。》
(昨日から何度も言うとるじゃろ。)
その時、一匹のゴブリンが信長の前で転んだ。ゴロゴロゴロ……起き上がると、慌てて頭を下げる。
「……あ。」
信長は目を丸くした。
「今、『あ』と言ったな。」
ゴブリンは嬉しそうに胸を張る。
「あ!」
信長はしゃがみ込み、その頭をぽんぽんと叩いた。
「よくできた。」
ゴブリンは飛び跳ねながら教室へ戻っていく。ルシフェルが静かにつぶやく。
《褒められるのが嬉しいのだな。》
(人も魔物も同じじゃ。)
《教育とは不思議なものだ。》
(其方も勉強になっとるじゃろ。)
《……否定できぬ。》
◇
二時間目。三年一組。こちらは上級悪魔クラスだった。黒板には大きく書かれている。
**戦略と戦術の違い**
教壇に立つのは信長。
「昨日、目的と目標の話をしたな。」
全員が頷く。
「では質問じゃ。戦略とは何じゃ。」
ベリアルが手を挙げる。
「十年後に勝つための考え方です。」
「よし。」
アモン。
「戦術とは今日勝つための考え方です。」
「よろしい。」
ダンタリオン。
「兵站は飯です。」
「惜しい。飯を食うことではない。飯を食わせることじゃ。」
会議室で教えた内容が、ちゃんと身についている。信長は満足そうだった。
(昨日よりええ。)
《一日で覚えるものなのか。》
(復習したからじゃ。)
《復習?》
(学校では当たり前じゃ。)
《学校とは忙しいな。》
◇
授業の終わり。信長は教卓に腰掛けた。
「一つ覚えておけ。強い者が勝つのではない。勝てる準備をした者が勝つ。」
静かな教室。
「力は鍛えれば伸びる。じゃが、考える力は、自分から学ばんと伸びん。」
「だから勉強する。」
上級悪魔たちは真剣な表情で頷いた。その様子を見て、ルシフェルが少し感心する。
《昨日まで未来の自販機ではしゃいでおった男とは思えぬな。》
(忘れろ。)
《パフェも二つ食べておった。》
(忘れろと言うとる。)
《文化祭にも行きたいと言っておった。》
(それはまだ先じゃ。)
《楽しみにしておるのか。》
(当然じゃ。)
信長は思わず笑ってしまう。上級悪魔たちは不思議そうに議長を見る。
「校長。何か面白いことでも?」
「いや。未来の話じゃ。」
「未来?」
「そのうち分かる。」
◇
放課後。校長室。ベリアルが報告書を持ってやって来た。
「校長。本日の報告です。」
「一年一組。『あ』が言えるようになった者、二十一名。『い』が言えるようになった者、三名。」
信長は静かに報告書を閉じた。
「昨日はゼロじゃった。今日は二十一人。立派な前進じゃ。」
ベリアルは少し照れくさそうに笑う。
「ありがとうございます。」
ルシフェルがその様子を見て、ぽつりと漏らした。
《信長。》
《お主は、戦だけではないのだな。》
信長は窓の外を眺める。
校庭ではゴブリンたちが、楽しそうに「あー!」「いー!」と叫びながら追いかけっこをしている。
(天下を治めるとは。人を育てることじゃ。)
《……。其方を器に選んだのは、正解だったのかもしれんな。》
信長は少し照れくさそうに鼻をかいた。
(今さら気付いたか。)
《昨日は思いつきと言われたからな。》
(事実じゃ。)
《……否定できぬ。》
二人は同時に笑った。
◇
「さて、第二回の魔王本部会議じゃ。宿題はできたかの?」
《目的と目標か?》
「そうじゃ。これが決まらんことには具体的な戦略に落とし込めんからの。」
《目的は、我々魔族と魔物が誰の邪魔もされず、この地球で平和に暮らせることだな。」
「ふむ。で、目標はどうする?」
《そうだな。目標は、人類と神に邪魔されない我々魔族と魔物の領地を確保する、でどうだ?》
「ふむ。確かにその目標が叶えば、目的も叶うと言えるな。ただ、領地の確保といっても、インフラは全て日本頼みじゃ。その辺の交渉はうまく持っていかねばならんの。で、とりあえずはこの近江、じゃない、滋賀県とやらを我等の領地にする、インフラを提供させる、あと金も毎年献上させよう。」
《う、うむ。さすが信長だな。そこまで頭が回るとは。》
「ふふん、信長じゃからな。もっと褒めても良いぞ?」
《図に乗るな!皆に発表するからさっさと体変われ!》
「ブーーー。へいへい。」
こうしてルシフェルは皆に目的と目標を発表するのであった。
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