第5話① ゴブリン一年一組 前半
四月十四日。午前八時三十分。
安土城魔王学園。一年一組。
担任のベリアルは、教室の前で深呼吸を繰り返していた。
「大丈夫……。私は上級悪魔……。教師くらい……。」
教室の中から元気な声が聞こえる。
「ギャーー!」「ギャギャ!」「ギャーーーー!」
ベリアルは天井を見上げた。
「……無理かもしれない。」
廊下では信長が腕を組んで立っていた。
(どうじゃ。)
頭の中でルシフェルが笑う。
<まだ始まってもおらんぞ。>
(教師とは最初が一番大変なんじゃ。)
<其方も経験あるのか。>
(ない。)
<ないのか。>
(じゃが見れば分かる。)
ベリアルが教室へ入る。
「お、おはようございます!」
ゴブリンたち。
「ギャーー!」「ギャ!」「ギャギャーー!」
「違います!返事です!おはようございます!」
「ギャ!」
「惜しい!」
ベリアルは黒板へ書いた。
**朝礼**
「それでは。これから朝礼を始めます。」
ゴブリンたちは静かになった。
「まずは出席確認です。名前を呼ばれたら元気よく返事してください。」
名簿を開く。
「ゴブオ君。」
「ギャ!」
「元気ですね。ゴブタ君。」
「ギャギャ!」
「返事は一回です。ゴブリンさん。」
「ギャギャギャ!」
「だから一回!」
教室中が「ギャギャギャ!」と言い始めた。
「違います!増やさない!」
廊下。信長は笑いをこらえていた。
(大変そうじゃのう。)
<昨日より悪化しておる気もする。>
(最初はこんなもんじゃ。)
「では。一時間目は国語です。」
ベリアルは教科書を掲げた。
「教科書八ページを開いてください。」
ゴブリン全員。教科書を逆さまに持った。
「まず向きを直しましょう。」
十分後。
ようやく全員が同じページを開く。ベリアルは黒板へ大きく書いた。
**あ**
「今日はひらがなの『あ』です。先生の後について発音してください。」「あ。」
「ギャ。」
「違います。」「あ。」
「ギャ。」
「惜しい。」「あーー。」
「ギャーー。」
「もう少し。」
十分後。
「あーーーー。」
「ギアアアア。」
「惜しい!」
廊下。信長が頷く。
(昨日より口の動きがええ。)
<そんなことまで分かるのか。>
(教師は口を見る。)
<校長は忙しいな。>
ベリアルは一匹ずつ練習させ始めた。
「ゴブオ君。」
「あ。」
「アー。」
「よし!その調子!」
教室中から拍手が起こる。
パチパチパチ。
ゴブオは得意そうに胸を張った。
「では、ゴブタ君。一人でやってみましょう。」
ゴブタは緊張している。大きく息を吸う。
「ウアアアア!」
一瞬、教室が静まり返った。ベリアルは満面の笑みになる。
「よくやりました!昨日よりずっと良いです!」
机の中から一本取り出す。
「これはご褒美です。イカの足!」
ゴブタは飛び上がった。
「ギャーーー!」
教室中が大歓声になる。ゴブリンたちはイカの足を羨ましそうに見ていた。
廊下。信長は満足そうに頷く。
(ちゃんと褒めとる。)
<其方が昨日教えたことだな。>
(人も魔物も同じじゃ。)
(褒められると伸びる。)
<なるほど。少し分かってきた。。》
ベリアルは黒板を見た。
「今日は欲張って。次の文字もいきましょう。」
黒板へ書く。
**い**
「先生の後についてください。」「い。」
ゴブリンたち。
「キイイイ!」
「惜しい!もう一回!」「い!」
「ギイイ!」
「惜しい!」
廊下で信長は思わず笑った。
(今日は一日で『あ』と『い』じゃ。)
<進歩しとるな。>
(教育とは毎日の積み重ねじゃ。)
<其方。世界征服より教師の方が向いておるのではないか。>
(それは褒め言葉として受け取っておく。)
教室の中では、今日も元気な声が響いていた。
「あーー!」
「ギャーー!」
「いーー!」
「キイイ!」
安土城魔王学園、一年一組。世界で一番にぎやかな国語の授業は、まだ始まったばかりだった。
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