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蒼空のレガリア  作者:
1章 蒼空の継承者編
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9/31

第八話 エクリプス

 ヴァイスが去った後もしばらく店内は静まり返っていた。


 誰もが先ほどの出来事を理解できずにいる。


 ⸻


 最初に口を開いたのはフィンだった。


 ⸻


「誰だよあいつ……」


 ⸻


 それは全員の気持ちだった。


 ⸻


 アークは店の入口を見つめる。


 もうヴァイスの姿はない。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 最後の言葉だけが頭から離れなかった。


 ⸻


『その夢』


 ⸻


『まだ見ているのか』


 ⸻


 なぜ知っている。


 ⸻


 誰にも話したことがないはずなのに。


 ⸻


「アーク」


 ⸻


 グレンの声で我に返る。


 ⸻


「顔色が悪い」


 ⸻


「……そうか?」


 ⸻


「そうだ」


 ⸻


 誤魔化せなかった。


 ⸻


 頭の中が混乱している。


 ⸻


 夢のこと。


 ⸻


 紋章のこと。


 ⸻


 ヴァイスのこと。


 ⸻


 繋がりそうで繋がらない。


 ⸻


 その時。


 ⸻


 セレスが倒した魔物の死体を調べていた。


 ⸻


 完全に研究者の顔になっている。


 ⸻


「やっぱり……」


 ⸻


 何かに気付いたらしい。


 ⸻


「知ってるのか?」


 アークが聞く。


 ⸻


 セレスは頷く。


 ⸻


「この紋章」


 ⸻


 魔物の胸を指差す。


 ⸻


 黒い円。


 ⸻


 その周囲を囲む七本の線。


 ⸻


 不気味な意匠だった。


 ⸻


「古代遺跡で見たことがあります」


 ⸻


「どこで?」


 ⸻


「文献だけですが」


 ⸻


 セレスは鞄から手帳を取り出した。


 ⸻


 大量のメモ。


 ⸻


 びっしり書き込まれている。


 ⸻


「確か……」


 ⸻


 ページをめくる。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 目的の場所を見つけた。


 ⸻


「これです」


 ⸻


 そこに描かれていたのは同じ紋章だった。


 ⸻


 その下には文字。


 ⸻


 古代文字。


 ⸻


 アークは自然と読み上げる。


 ⸻


「終焉を告げる者」


 ⸻


 セレスの顔色が変わった。


 ⸻


「読めるんですね……」


 ⸻


「読めた」


 ⸻


 自分でも不思議だった。


 ⸻


 考える前に意味が分かる。


 ⸻


 昔からそうだった。


 ⸻


 セレスはページを見つめる。


 ⸻


「終焉を告げる者……」


 ⸻


「何なんだそれ」


 ⸻


 フィンが聞く。


 ⸻


 セレスは答える。


 ⸻


「分かりません」


 ⸻


「おい」


 ⸻


「本当に分からないんです!」


 ⸻


 少しむくれている。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 続く言葉は重かった。


 ⸻


「ただ、この紋章はどの文献にも共通して出てきます」


 ⸻


「何と一緒に?」


 ⸻


 セレスは息を飲む。


 ⸻


 そして静かに言った。


 ⸻


「ネフィリムです」


 ⸻


 空気が変わった。


 ⸻


 その名前。


 ⸻


 アークも聞いた。


 ⸻


 夢の中で。


 ⸻


 さっきの幻覚の中で。


 ⸻


 確かに。


 ⸻


『ネフィリム』


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 そう呼ばれていた。


 ⸻


「何なんだよそれ」


 ⸻


 フィンの声も少し弱くなる。


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 セレスは首を横に振った。


 ⸻


「伝説です」


 ⸻


「伝説?」


 ⸻


「はい」


 ⸻


 そして。


 ⸻


「世界を滅ぼしかけた災厄」


 ⸻


 誰も喋らなくなった。


 ⸻


 笑い話ではない。


 ⸻


 セレスも真剣だった。


 ⸻


「もちろん神話です」


 ⸻


「でも」


 ⸻


「古代文明の崩壊と関係している可能性があります」


 ⸻


 グレンが腕を組む。


 ⸻


「嫌な話だな」


 ⸻


 その通りだった。


 ⸻


 嫌な予感しかしない。


 ⸻


 その時だった。


 ⸻


 アイリスが立ち上がる。


 ⸻


「ごめん」


 ⸻


「ん?」


 ⸻


「少し外に出てくる」


 ⸻


 そう言って店を出て行った。


 ⸻


 アークは少し迷う。


 ⸻


 そして立ち上がった。


 ⸻


「追いかける」


 ⸻


 グレンは止めなかった。


 ⸻


 ただ一言だけ。


 ⸻


「目を離すな」


 ⸻


 アークは頷く。


 ⸻


 外へ出る。


 ⸻


 夕暮れだった。


 ⸻


 リベルタの街が赤く染まっている。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 アイリスは時計塔の見える広場に立っていた。


 ⸻


 風が銀髪を揺らしている。


 ⸻


 アークは近付く。


 ⸻


「大丈夫か?」


 ⸻


 アイリスは振り向かない。


 ⸻


 しばらく沈黙。


 ⸻


 やがて。


 ⸻


 小さく呟いた。


 ⸻


「怖いの」


 ⸻


 初めて聞く声だった。


 ⸻


 弱々しくて。


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 今にも消えそうで。


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 アークは何も言えなかった。


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 アイリスは空を見上げる。


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「何かが近付いてる」


 ⸻


「何かって?」


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 答えは返ってこない。


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 代わりに。


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 アイリスはぽつりと言った。


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「もし私が」


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 言葉が止まる。


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 何かを飲み込んだように。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 無理やり笑った。


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「ううん」


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「何でもない」


 ⸻


 アークは納得できなかった。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 それ以上は聞かなかった。


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 今はまだ。


 ⸻


 アイリス自身も話せないのだと分かったから。


 ⸻


 その頃。


 ⸻


 リベルタ地下。


 ⸻


 誰も知らない遺跡の奥。


 ⸻


 ヴァイスは静かに歩いていた。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 巨大な石扉の前で立ち止まる。


 ⸻


 扉には古代文字が刻まれていた。


 ⸻


 彼は迷いなく読み上げる。


 ⸻


「蒼空の継承者が現れし時」


 ⸻


「第一のレガリアは目覚める」


 ⸻


 石扉が震える。


 ⸻


 ゆっくりと開いていく。


 ⸻


 ヴァイスの金色の瞳が細められた。


 ⸻


「始まるな」


 ⸻


 レガリアを巡る本当の戦いが。

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