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蒼空のレガリア  作者:
1章 蒼空の継承者編
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8/31

第七話 白銀の青年

 ヴァイスは店の奥の席へ腰を下ろした。


 それだけだった。


 アークたちに話しかけるわけでもない。


 こちらを見ることもない。


 ただ静かに窓の外を眺めている。


 ⸻


 それなのに。


 なぜか気になった。


 ⸻


「知り合いか?」


 グレンが聞く。


 ⸻


「いや」


 アークは首を振る。


 ⸻


 会ったことはない。


 少なくとも記憶にはない。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 妙に引っ掛かる。


 ⸻


 夢で見たことがあるような。


 そんな感覚だった。


 ⸻


「変な顔してますよ」


 セレスが言う。


 ⸻


「そうか?」


 ⸻


「してます」


 ⸻


「してるな」


 グレンまで頷いた。


 ⸻


「ひどいな」


 ⸻


 フィンは笑っていた。


 ⸻


「村出たばっかなのに恋か?」


 ⸻


「違う!」


 ⸻


「反応早っ」


 ⸻


 セレスが吹き出した。


 ⸻


 アイリスも小さく笑う。


 ⸻


 少しだけ空気が和らいだ。


 ⸻


 その時だった。


 ⸻


 ガシャァン!!


 ⸻


 突然。


 店の窓ガラスが割れた。


 ⸻


 悲鳴。


 ⸻


 客たちが振り向く。


 ⸻


 黒い影が店内へ飛び込んできた。


 ⸻


 魔物だった。


 ⸻


 犬に似ている。


 ⸻


 だが体長は二メートル近い。


 全身を黒い毛に覆われている。


 ⸻


 赤い瞳。


 鋭い牙。


 ⸻


「魔物!?」


 ⸻


 リベルタのど真ん中だ。


 ⸻


 普通ならありえない。


 ⸻


 魔物は咆哮する。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 一番近くにいた子供へ向かって飛び掛かった。


 ⸻


「危ない!」


 ⸻


 アークが立ち上がる。


 ⸻


 だが距離が遠い。


 ⸻


 間に合わない。


 ⸻


 そう思った瞬間。


 ⸻


 白い閃光が走った。


 ⸻


 魔物が吹き飛ぶ。


 ⸻


 壁へ激突。


 ⸻


 店内が静まり返った。


 ⸻


 誰も何が起きたのか分からない。


 ⸻


 ただ一人。


 ⸻


 ヴァイスだけが立っていた。


 ⸻


 いつの間にか。


 ⸻


 抜き放たれた黒い剣。


 ⸻


 その切っ先が魔物へ向いている。


 ⸻


「下がっていろ」


 ⸻


 静かな声だった。


 ⸻


 だが有無を言わせない迫力があった。


 ⸻


 魔物が唸る。


 ⸻


 立ち上がる。


 ⸻


 そして再び襲い掛かろうとした。


 ⸻


 次の瞬間。


 ⸻


 黒い剣が閃く。


 ⸻


 一撃だった。


 ⸻


 魔物はそのまま崩れ落ちる。


 ⸻


 動かない。


 ⸻


 絶命していた。


 ⸻


 店内が騒然となる。


 ⸻


「なんだ今の……」


 ⸻


 アークは呆然としていた。


 ⸻


 強い。


 ⸻


 それしか言葉が出なかった。


 ⸻


 グレンも目を細めている。


 ⸻


「相当だな」


 ⸻


 歴戦の傭兵がそう言うほどだった。


 ⸻


 ヴァイスは剣を納める。


 ⸻


 そして何事もなかったかのように歩き出す。


 ⸻


 店を出ようとしている。


 ⸻


 その時。


 ⸻


 アークは気付いた。


 ⸻


 魔物の胸。


 ⸻


 そこに奇妙な紋章が刻まれている。


 ⸻


 見覚えがあった。


 ⸻


 夢の中。


 ⸻


 崩壊する神殿。


 ⸻


 その壁に刻まれていた紋章。


 ⸻


 ズキッ――


 ⸻


 激しい頭痛。


 ⸻


 視界が揺れる。


 ⸻


 知らない記憶が流れ込む。


 ⸻


 燃える都市。


 ⸻


 戦場。


 ⸻


 黒い怪物。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 巨大な黒い瞳。


 ⸻


『ネフィリム』


 ⸻


 誰かがそう呼んだ。


 ⸻


「っ!」


 ⸻


 アークは息を呑む。


 ⸻


 気付けば。


 ⸻


 ヴァイスが立ち止まっていた。


 ⸻


 振り返っている。


 ⸻


 金色の瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。


 ⸻


 まるで。


 ⸻


 アークの見たものを理解しているように。


 ⸻


 数秒。


 ⸻


 沈黙が続く。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 ヴァイスは初めて口を開いた。


 ⸻


「その夢」


 ⸻


 アークの背筋が凍る。


 ⸻


「まだ見ているのか」


 ⸻


 店内の空気が止まった。


 ⸻


 なぜ。


 ⸻


 なぜこの男が。


 ⸻


 夢のことを知っている。


 ⸻


 ヴァイスは答えない。


 ⸻


 ただ。


 ⸻


 静かに告げた。


 ⸻


「近いうちにまた会う」


 ⸻


 そう言い残して店を出ていった。


 ⸻


 アークは動けなかった。


 ⸻


 夢。


 ⸻


 ネフィリム。


 ⸻


 謎の青年。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 アイリスの怯えたような表情。


 ⸻


 何かが始まっている。


 ⸻


 まだ見えない何かが。


 ⸻


 確実に。

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