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蒼空のレガリア  作者:
1章 蒼空の継承者編
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5/31

第四話 空船の港町

 フィオラ島の空港は、村から歩いて半日ほどの場所にあった。


 島の端。


 巨大な断崖の上に造られた発着場。


 空船が行き交うための港だ。


 ⸻


「でか……」


 アークは思わず声を漏らした。


 ⸻


 目の前には巨大な空船が停泊している。


 木造の船体。


 何枚もの帆。


 船底には蒼く光る魔導結晶。


 まるで空飛ぶ城だった。


 ⸻


「初めて見るのか」


 グレンが聞く。


 ⸻


「遠くからなら」


 ⸻


「田舎者だな」


 ⸻


「うるさい」


 ⸻


 出会って一日。


 だがもう分かる。


 この男は口が悪い。


 ⸻


 アイリスは黙って船を見上げていた。


 ⸻


 その横顔を見て、アークは少し気になった。


 ⸻


「どうした?」


 ⸻


「……懐かしい気がする」


 ⸻


 アイリスは小さく呟く。


 ⸻


「乗ったことあるのか?」


 ⸻


「分からない」


 ⸻


 そう言って首を振る。


 ⸻


 やはり記憶が曖昧なのだろう。


 ⸻


 その時だった。


 ⸻


 ボォォォォォ――


 ⸻


 低い汽笛が鳴る。


 ⸻


 船員たちが忙しく動き始めた。


 ⸻


「出航だ!」


 ⸻


「乗り遅れるな!」


 ⸻


 乗客たちが慌てて船へ向かう。


 ⸻


 アークたちも乗船した。


 ⸻


 船が浮き上がる。


 ⸻


 地面が離れる。


 ⸻


 フィオラ島が少しずつ小さくなっていく。


 ⸻


「おおおおお!」


 ⸻


 アークは身を乗り出した。


 ⸻


「落ちるぞ」


 ⸻


「落ちない!」


 ⸻


「そう言う奴が落ちる」


 ⸻


「縁起悪いこと言うな!」


 ⸻


 アイリスが吹き出した。


 ⸻


「ふふっ」


 ⸻


 旅が始まって初めて見た笑顔だった。


 ⸻


 その笑顔を見て。


 アークは少し安心した。


 ⸻


 空船は順調に飛んでいた。


 ⸻


 青空。


 雲海。


 無数の浮遊島。


 ⸻


 まるで絵本の世界だった。


 ⸻


 だが。


 平和な時間は長く続かなかった。


 ⸻


「泥棒だ!」


 ⸻


 突然。


 船内から怒鳴り声が響く。


 ⸻


 乗客たちがざわつく。


 ⸻


 ひとりの少年が走っていた。


 ⸻


 金髪。


 軽装。


 年齢はアークより少し下だろうか。


 ⸻


 右手には財布が握られている。


 ⸻


 どう見ても犯人だった。


 ⸻


「待てコラ!」


 ⸻


 後ろから船員が追いかけている。


 ⸻


 少年は人混みを器用にすり抜ける。


 ⸻


 速い。


 ⸻


 かなり慣れている。


 ⸻


 だが。


 ⸻


「どけぇ!」


 ⸻


「え?」


 ⸻


 運が悪かった。


 ⸻


 進路上にいたのはアークだった。


 ⸻


 ドンッ!


 ⸻


 盛大に激突。


 ⸻


 二人とも転がる。


 ⸻


 財布が宙を舞う。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 少年は顔面から甲板へ突っ込んだ。


 ⸻


 静寂。


 ⸻


 周囲が固まる。


 ⸻


 アークも固まる。


 ⸻


 少年も固まる。


 ⸻


 数秒後。


 ⸻


「いっっっっっったぁぁぁぁ!!」


 ⸻


 絶叫が響いた。


 ⸻


「お前前見ろよ!」


 ⸻


「お前が突っ込んできたんだろ!」


 ⸻


「細かいこと言うな!」


 ⸻


「細かくない!」


 ⸻


 船員たちが追いつく。


 ⸻


 少年は慌てて立ち上がる。


 ⸻


 逃げようとする。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 グレンが首根っこを掴んだ。


 ⸻


「離せ!」


 ⸻


「無理だ」


 ⸻


「ちくしょう!」


 ⸻


 完全に捕まった。


 ⸻


 数分後。


 ⸻


 少年は甲板の隅に座らされていた。


 ⸻


 ふてくされている。


 ⸻


「で?」


 アークが聞く。


 ⸻


「なんで盗みなんてしたんだ?」


 ⸻


 少年は顔を逸らす。


 ⸻


 答えない。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 グゥゥゥ……


 ⸻


 お腹が鳴った。


 ⸻


 盛大に。


 ⸻


 アークとアイリスは顔を見合わせる。


 ⸻


 少年の顔が真っ赤になる。


 ⸻


「今のは違う」


 ⸻


「何がだよ」


 ⸻


「違うったら違う」


 ⸻


「腹減ってるじゃん」


 ⸻


「うるさい!」


 ⸻


 アークは苦笑した。


 ⸻


 そして。


 ⸻


「飯食うか?」


 ⸻


 少年が固まる。


 ⸻


 アイリスも少し驚いている。


 ⸻


 グレンは呆れていた。


 ⸻


「お前は昔からそうなのか」


 ⸻


「何が?」


 ⸻


「警戒心がない」


 ⸻


 アークには意味が分からなかった。


 ⸻


 だって。


 ⸻


 腹が減っているなら。


 まず飯を食うべきだろう。


 ⸻


 それだけの話だ。


 ⸻


 少年はしばらく黙っていた。


 ⸻


 やがて。


 ⸻


 小さく呟く。


 ⸻


「……フィン」


 ⸻


「ん?」


 ⸻


「俺の名前」


 ⸻


 そう言って。


 ⸻


 少しだけ笑った。


 ⸻


「フィンだ」


 ⸻


 後にアークたちの仲間となる少年との出会いだった。


 ⸻


 その頃。


 はるか遠く。


 雲海の向こう。


 ⸻


 黒い外套を纏う青年が空船を見上げていた。


 ⸻


 白銀の髪。


 金色の瞳。


 ⸻


 ヴァイス。


 ⸻


 彼の手には奇妙な結晶が握られている。


 ⸻


 蒼く脈動する光。


 ⸻


 レガリアに反応する結晶。


 ⸻


 ヴァイスは静かに目を閉じた。


 ⸻


「見つけた」


 ⸻


 そして。


 ⸻


「蒼空の継承者」


 ⸻


 旅はまだ始まったばかりだった。

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