第二十九話 蒼空の翼
風が唸る。
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アークは空を飛んでいた。
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正確には。
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飛ばされているに近い。
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「うおおおお!?」
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完全に初体験だった。
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蒼い翼は勝手に動く。
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だが本人は慣れていない。
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ぐらぐら揺れる。
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落ちそうになる。
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フィンが下から叫ぶ。
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「頑張れー!」
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「応援しかできないのか!」
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「できない!」
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正直だった。
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その時。
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グラドスが笑う。
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「未熟」
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巨大な翼が羽ばたく。
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暴風。
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アークの身体が吹き飛ばされる。
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「うわっ!」
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体勢が崩れる。
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危険だった。
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しかし。
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次の瞬間。
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蒼空のレガリアが光る。
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翼が反応する。
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風が集まる。
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自然と身体が安定する。
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まるで。
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飛び方を教えられているようだった。
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『空を信じろ』
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また声が聞こえる。
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アルト。
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アークは歯を食いしばる。
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違う。
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俺はアークだ。
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だが。
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力は借りる。
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今は。
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守るために。
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蒼い翼が大きく広がる。
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今度は自分の意思で飛ぶ。
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グラドスへ一直線。
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黒竜の瞳が細くなる。
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「良い」
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本当に楽しそうだった。
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まるで試験官だ。
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その時。
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地上。
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セレスが再び星記のレガリアを開く。
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無数の文字。
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無数の記録。
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そして。
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一つの記述を見つけた。
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「アーク!」
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声を張り上げる。
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「額の核は一度しか開かない!」
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アークが振り向く。
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「何!?」
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「大技の直後です!」
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つまり。
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今は閉じている。
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無理に攻撃しても届かない。
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ヴァイスも理解する。
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「なら誘うしかない」
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黒い剣を構える。
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その時。
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グラドスが彼を見る。
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そして笑った。
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「来るか」
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ヴァイスは答えない。
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消える。
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再び黒い閃光。
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今度は空中。
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連続斬撃。
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黒竜の鱗へ雨のように叩き込まれる。
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火花。
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衝撃。
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轟音。
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だが。
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グラドスも負けていない。
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巨大な爪が振るわれる。
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ヴァイスが回避。
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しかし。
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完全には避けきれない。
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肩が裂ける。
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血が舞う。
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「ヴァイス!」
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リリアが叫ぶ。
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だが。
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本人は平然としていた。
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むしろ。
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笑っている。
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珍しく。
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本当に少しだけ。
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「そうだ」
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ヴァイスが呟く。
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「それでいい」
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グラドスが怒る。
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挑発だった。
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完全に。
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黄金の瞳が光る。
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そして。
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膨大な魔力が集まる。
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黒炎。
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再び。
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さっきよりも大きい。
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空そのものを焼き尽くしそうな規模。
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ヴァイスが叫ぶ。
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「今だ!」
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グラドスの額。
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紋章が開く。
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核が露出する。
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赤く。
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脈動するように。
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アークは翼を広げる。
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風が集まる。
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蒼空のレガリアが輝く。
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胸が熱い。
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身体中に力が巡る。
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その瞬間。
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また記憶が流れ込む。
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千年前。
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同じ空。
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同じ敵。
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アルトが飛んでいる。
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そして。
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最後に言った。
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『未来を頼む』
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アークは目を閉じる。
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そして。
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開く。
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「任せろ」
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それはアルトへの返事だった。
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継承者としてではない。
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アークとして。
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蒼い翼が加速する。
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限界まで。
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風が吠える。
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黒竜の額。
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核へ向かって。
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最後の一撃が放たれようとしていた。




