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蒼空のレガリア  作者:
1章 蒼空の継承者編
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3/31

第二話 黒翼の魔獣

 村の鐘が鳴り続ける。


 カン、カン、カン――。


 嫌な音だった。


 普段は滅多に鳴らない。


 だからこそ、聞くだけで胸がざわつく。


 ⸻


「アーク!」


 階下から母さんの声が聞こえる。


「逃げる準備を!」


「分かってる!」


 返事をしながら壁に掛けてあった剣を手に取る。


 訓練用ではない。


 父親の形見だった。


 古い剣だが、手入れは欠かしていない。


 ⸻


「行くの?」


 アイリスが聞く。


 アークは頷いた。


「様子を見るだけだ」


「危険だよ」


「それでも行かなきゃ」


 ⸻


 村には知り合いがいる。


 友人もいる。


 見捨てるなんて選択肢はなかった。


 ⸻


 家を飛び出す。


 村は混乱していた。


 人々が避難している。


 子供を抱えた母親。


 荷物を運ぶ男たち。


 叫び声。


 泣き声。


 ⸻


 アークは人波を掻き分けながら広場へ向かった。


 ⸻


 すると。


 空から影が落ちる。


 ⸻


 巨大な翼。


 黒い羽。


 鋭い鉤爪。


 赤く光る瞳。


 ⸻


 魔獣だった。


 ⸻


「うそだろ……」


 アークは息を呑む。


 こんな魔物、この辺りでは見たことがない。


 ⸻


 魔獣が翼を羽ばたかせる。


 突風。


 家の屋根が吹き飛ぶ。


 悲鳴が上がる。


 ⸻


「逃げろ!」


 村人たちが叫ぶ。


 ⸻


 だが。


 間に合わなかった。


 ⸻


 魔獣が急降下する。


 進路上には少女がいた。


 足をくじいたのか立ち上がれない。


 ⸻


「危ない!」


 ⸻


 考えるより先に体が動いていた。


 ⸻


 アークは走る。


 全力で。


 ⸻


 少女を抱えて飛び込む。


 次の瞬間。


 さっきまでいた場所が抉れた。


 土が吹き飛ぶ。


 石が砕ける。


 ⸻


「大丈夫か!?」


 少女は泣きながら頷いた。


 ⸻


 その時。


 頭の奥が痛んだ。


 ⸻


 ズキッ――


 ⸻


 突然だった。


 ⸻


 知らない景色。


 知らない戦場。


 知らない男。


 ⸻


『右から来る!』


 ⸻


 声が響く。


 ⸻


 反射的に振り向く。


 ⸻


 魔獣がいた。


 ⸻


 アークは剣を構える。


 無意識だった。


 ⸻


 体が勝手に動く。


 ⸻


 魔獣の爪を受け流す。


 ⸻


「え……?」


 自分でも驚いた。


 今の動きは知らない。


 習ったこともない。


 ⸻


 だが体は覚えていた。


 ⸻


 再び頭痛が走る。


 ⸻


 夢で見た景色。


 崩壊する神殿。


 戦う人々。


 ⸻


 そして。


 金色の光を放つ剣。


 ⸻


『まだだ』


 ⸻


 誰かの声が聞こえた気がした。


 ⸻


『立て』


 ⸻


 その瞬間。


 アークの剣が淡く光った。


 ⸻


 蒼い光だった。


 ⸻


 一瞬だけ。


 ほんの一瞬だけ。


 ⸻


 しかし魔獣は反応した。


 ⸻


 まるで恐れるように。


 ⸻


「グルァァァァ!!」


 ⸻


 叫び声を上げて空へ舞い上がる。


 ⸻


 アークは呆然と見上げた。


 ⸻


 なんだったんだ今のは。


 ⸻


 なぜ剣が光った。


 ⸻


 なぜ魔獣は逃げた。


 ⸻


 分からない。


 何も。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 後ろで見ていたアイリスだけは知っていた。


 ⸻


 アークの手の中にある剣。


 そこに宿る微かな光を。


 ⸻


 そして。


 彼の中で目覚め始めたものを。


 ⸻


 アイリスは誰にも聞こえない声で呟く。


 ⸻


「蒼空のレガリア……」


 ⸻


 アークは振り返る。


 ⸻


「今、何か言ったか?」


 ⸻


 アイリスは小さく首を振った。


 ⸻


「ううん」


 ⸻


 だがその瞳には。


 確かな不安が浮かんでいた。


 ⸻


 レガリアが目覚める。


 それは世界が動き始める合図。


 そして同時に。


 エクリプスもまた、その気配を感じ取っていた。


 ⸻


 遥か遠く。


 黒い外套を纏った青年が空を見上げる。


 ⸻


 白銀の髪。


 金色の瞳。


 ⸻


 ヴァイス。


 ⸻


 彼は静かに呟いた。


 ⸻


「見つけた」


 ⸻


 その言葉と共に。


 長い旅が動き出そうとしていた。

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