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蒼空のレガリア  作者:
1章 蒼空の継承者編
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26/31

第二十五話 千年の記憶

 アイリスは膝をついたまま動かなかった。


 ⸻


 涙が止まらない。


 ⸻


 呼吸も乱れている。


 ⸻


 まるで溺れているようだった。


 ⸻


「アイリス!」


 ⸻


 アークが駆け寄る。


 ⸻


 肩を支える。


 ⸻


 その瞬間。


 ⸻


 アイリスの身体が震えた。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 見開かれた瞳に映るものが変わる。


 ⸻


 今のセレスティアではない。


 ⸻


 今のアークでもない。


 ⸻


 千年前。


 ⸻


 遥か昔の景色。


 ⸻


「アルト……」


 ⸻


 小さな声。


 ⸻


 アークの胸がざわつく。


 ⸻


 その名前。


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 何度も聞いた。


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 夢の中で。


 ⸻


 記録の中で。


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 英雄の名として。


 ⸻


 しかし。


 ⸻


 今のアイリスの呼び方は違った。


 ⸻


 英雄ではない。


 ⸻


 大切な人の名前だった。


 ⸻


 禁書庫は静まり返る。


 ⸻


 アルドも。


 ⸻


 セレスも。


 ⸻


 フィンも。


 ⸻


 誰も言葉を挟まない。


 ⸻


 今だけは。


 ⸻


 アイリスの時間だった。


 ⸻


「思い出したの」


 ⸻


 震える声。


 ⸻


「全部じゃない」


 ⸻


「でも……大事なことは」


 ⸻


 ゆっくりと顔を上げる。


 ⸻


 涙で濡れた瞳。


 ⸻


 その中には。


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 今までなかった強い光が宿っていた。


 ⸻


「私はアイリス」


 ⸻


 当たり前の言葉。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 次の言葉は違った。


 ⸻


「創世の巫女」


 ⸻


 部屋が静まり返る。


 ⸻


 七つのレガリア。


 ⸻


 その中心。


 ⸻


 創世のレガリア。


 ⸻


 ネフィリムを封印した存在。


 ⸻


 その継承者。


 ⸻


 いや。


 ⸻


 本人。


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 アイリスは続ける。


 ⸻


「千年前」


 ⸻


「私はネフィリムを封印した」


 ⸻


 セレスが息を呑む。


 ⸻


 フィンも言葉を失う。


 ⸻


 理屈ではありえない。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 今までの出来事を考えれば。


 ⸻


 否定できなかった。


 ⸻


「封印の代償で」


 ⸻


 アイリスは胸へ手を当てる。


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「私は眠った」


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 長い眠り。


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 千年。


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 気が遠くなる時間。


 ⸻


「でも封印は完全じゃなかった」


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 ヴァイスが目を閉じる。


 ⸻


 やはり知っていた。


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「だからマルクトは」


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 アイリスは唇を噛む。


 ⸻


「私を探していた」


 ⸻


 創世の巫女。


 ⸻


 創世のレガリア。


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 封印の鍵。


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 全てが繋がる。


 ⸻


 アークは拳を握る。


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 やっと見えてきた。


 ⸻


 敵の目的が。


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「じゃあ」


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 セレスが震える声で聞く。


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「もし創世のレガリアを奪われたら」


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 アイリスは答えない。


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 その代わり。


 ⸻


 ヴァイスが言った。


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「封印が解ける」


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 重い言葉だった。


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 誰も反論できない。


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 そして。


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 その先にある未来も。


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 容易に想像できた。


 ⸻


 ネフィリム復活。


 ⸻


 世界の終わり。


 ⸻


 千年前の再現。


 ⸻


 いや。


 ⸻


 今度こそ終わるかもしれない。


 ⸻


 長い沈黙。


 ⸻


 その時だった。


 ⸻


 アークが立ち上がる。


 ⸻


 全員が見る。


 ⸻


 アークは迷わず言った。


 ⸻


「なら守ればいい」


 ⸻


 シンプルだった。


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 あまりにも。


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 フィンが思わず吹き出す。


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「お前らしいな」


 ⸻


 セレスも苦笑する。


 ⸻


 グレンは小さく笑った。


 ⸻


 アイリスだけが目を見開く。


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「でも」


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「私のせいで」


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 アークは首を振る。


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「違う」


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 即答だった。


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「お前が世界を守ったんだろ」


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 アイリスが固まる。


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 誰も言わなかった言葉。


 ⸻


 千年間。


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 誰からも。


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「だったら今度は俺たちが守る番だ」


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 静かな声。


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 でも。


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 力強かった。


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 アイリスの瞳から涙が溢れる。


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 今度は悲しみじゃない。


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 少しだけ。


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 救われた涙だった。


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 その時。


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 禁書庫の奥で何かが光る。


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 全員が振り向く。


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 蒼い光。


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 古代文字。


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 巨大な石碑。


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 そこに刻まれた文字を。


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 アークは自然と読み上げた。


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「第三のレガリア」


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 空気が変わる。


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 アルドが顔色を変える。


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 ヴァイスも目を細める。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 石碑には続きが刻まれていた。


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「永刻のレガリア」


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「眠る地――クロノス遺跡」


 ⸻


 第三のレガリア。


 ⸻


 新たな目的地。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 マルクトも必ず向かう場所。


 ⸻


 物語は次の章へ進む。

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