第二十四話 創世の少女
禁書庫は静まり返っていた。
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誰も喋らない。
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誰も動かない。
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全員の視線が。
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アイリスへ集まっていた。
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アイリスは映像を見つめている。
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千年前の自分を。
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いや。
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自分と同じ顔をした少女を。
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長い沈黙。
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やがて。
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アイリスは震える声で言った。
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「分からない」
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本音だった。
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嘘ではない。
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本当に分からない。
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しかし。
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それだけではなかった。
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「でも……」
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頭を押さえる。
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苦しそうに。
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辛そうに。
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まるで閉じ込められていた記憶が暴れ始めたように。
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「思い出しそうなの」
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アークは一歩前へ出る。
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「無理するな」
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その声に。
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アイリスは少しだけ救われたような顔をした。
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だが。
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もう遅かった。
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禁書庫中央の水晶が輝く。
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強く。
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今まで以上に。
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アルドが顔色を変える。
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「まさか」
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次の瞬間。
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映像が変わった。
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強制的に。
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誰の意思でもなく。
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水晶が勝手に記録を再生し始める。
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映し出される千年前。
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戦場だった。
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燃える世界。
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崩れる都市。
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黒い空。
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そして。
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ネフィリム。
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巨大な黒い瞳。
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世界を覆う災厄。
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誰も言葉を失う。
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神話ではない。
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現実だった。
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本当に起きたことだった。
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その中で。
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五英雄が戦っている。
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アルト。
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ノクト。
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ヴォルグ。
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エルナ。
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レイ。
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そして。
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その中心に立つ少女。
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アイリス。
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彼女は泣いていた。
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悲しそうに。
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苦しそうに。
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それでも。
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決意した顔で。
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何かを抱いている。
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蒼く輝く光。
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アルドが震える声で言った。
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「創世のレガリア……」
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七つ目。
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最後のレガリア。
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そして。
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最も強大な力。
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映像の中で。
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アルトがアイリスへ叫ぶ。
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『行け!』
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『もう時間がない!』
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アイリスが泣きながら首を振る。
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『嫌!』
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『みんな死んじゃう!』
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アークの胸が締め付けられる。
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まるで。
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自分がそこにいたように。
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感情まで伝わってくる。
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アルトは笑った。
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不思議なくらい穏やかに。
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『だから頼む』
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『お前しかできない』
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映像の中のアイリスが泣く。
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何度も。
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何度も。
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首を振る。
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しかし。
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最後には。
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頷いた。
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そして。
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創世のレガリアが輝く。
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世界が白く染まる。
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ネフィリムを包み込む。
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封印。
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千年前の真実だった。
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誰も喋れない。
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映像はまだ続いていた。
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光が消える。
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そこには。
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誰もいなかった。
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アルトも。
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ノクトも。
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仲間たちも。
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アイリスも。
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全て消えていた。
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封印と引き換えに。
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世界を救った。
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その記録だった。
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そして。
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最後。
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映像の終わり際。
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消える直前のアイリスが。
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こちらを見た。
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ありえない。
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記録のはずだ。
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なのに。
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真っ直ぐ。
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今のアークを見るように。
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そして。
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微笑んだ。
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『ごめんね』
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その言葉と同時に。
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映像が消える。
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静寂。
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誰も動かない。
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そして。
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アイリスの瞳から涙が溢れた。
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止まらない。
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理由も分からない。
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なのに。
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悲しい。
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苦しい。
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胸が痛い。
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そして。
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頭の奥で。
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閉ざされていた扉が開く。
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無数の記憶。
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無数の時間。
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千年分の孤独。
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一気に流れ込んでくる。
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アイリスは膝をついた。
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「思い……出した……」
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その一言に。
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全員の鼓動が止まる。
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ついに。
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物語最大の謎が解かれようとしていた。




