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蒼空のレガリア  作者:
1章 蒼空の継承者編
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22/31

第二十一話 黒き巨人

 地面を突き破って現れた腕は、それだけで塔ほどの大きさがあった。


 ⸻


 黒い結晶。


 ⸻


 禍々しい紋様。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 触れているだけで心が重くなるような圧力。


 ⸻


「なんだよ……あれ」


 ⸻


 フィンの声が震える。


 ⸻


 無理もない。


 ⸻


 腕だけでこの大きさだ。


 ⸻


 本体が出てきたらどうなる。


 ⸻


 想像したくなかった。


 ⸻


 地面がさらに割れる。


 ⸻


 轟音。


 ⸻


 建物が崩れる。


 ⸻


 人々の悲鳴が響く。


 ⸻


 黒い巨人が姿を現した。


 ⸻


 身長は二十メートルを超えている。


 ⸻


 人型。


 ⸻


 だが人間ではない。


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 顔がない。


 ⸻


 あるのは黒い仮面のようなものだけ。


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 胸には巨大な紋章。


 ⸻


 ネフィリムの印。


 ⸻


 アルドが顔を青くする。


 ⸻


「封印兵……」


 ⸻


 セレスが振り返る。


 ⸻


「知ってるんですか!?」


 ⸻


「古文書にしか存在しないはずだ!」


 ⸻


 つまり。


 ⸻


 伝説の怪物。


 ⸻


 本来なら存在しないもの。


 ⸻


 マルクトは満足そうに見上げている。


 ⸻


「美しい」


 ⸻


 本気だった。


 ⸻


 狂気そのものだった。


 ⸻


 その時。


 ⸻


 黒き巨人が動く。


 ⸻


 ゆっくりと腕を持ち上げる。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 セレスティア中心部へ振り下ろそうとした。


 ⸻


「まずい!」


 ⸻


 グレンが叫ぶ。


 ⸻


 あんなものを許したら街が消える。


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 次の瞬間。


 ⸻


 黒い閃光。


 ⸻


 ヴァイスだった。


 ⸻


 一瞬で巨人の肩まで跳び上がる。


 ⸻


 人間離れした速度。


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 黒剣が振るわれる。


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 巨大な斬撃。


 ⸻


 轟音と共に巨人の腕が切り裂かれる。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 浅い。


 ⸻


 再生していく。


 ⸻


「再生!?」


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 フィンが叫ぶ。


 ⸻


 ありえない。


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 切ったはずだ。


 ⸻


 それなのに傷が塞がっていく。


 ⸻


 ヴァイスが舌打ちする。


 ⸻


 初めて見る表情だった。


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 余裕がない。


 ⸻


「核を破壊しろ!」


 ⸻


 その声が響く。


 ⸻


 アークは巨人を見る。


 ⸻


 胸。


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 紋章の中心。


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 そこだけ赤く光っていた。


 ⸻


 核。


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 間違いない。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 遠い。


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 高すぎる。


 ⸻


 届かない。


 ⸻


 その時だった。


 ⸻


 セレスの手の中の星記のレガリアが輝く。


 ⸻


 蒼い文字。


 ⸻


 無数のページ。


 ⸻


 彼女の周囲を回り始める。


 ⸻


 セレス自身も驚いていた。


 ⸻


「な、何これ!?」


 ⸻


 頭の中へ知識が流れ込んでいる。


 ⸻


 古代魔術。


 ⸻


 失われた術式。


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 知らないはずなのに理解できる。


 ⸻


 星記のレガリア。


 ⸻


 それは世界の記録そのものだった。


 ⸻


 セレスは無意識に手を伸ばす。


 ⸻


 古代文字が空へ浮かぶ。


 ⸻


 魔法陣が形成される。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 巨大な蒼い鎖が現れた。


 ⸻


「え?」


 ⸻


 本人が一番驚いている。


 ⸻


 鎖は巨人へ飛ぶ。


 ⸻


 腕。


 ⸻


 足。


 ⸻


 胴体。


 ⸻


 次々に巻き付いていく。


 ⸻


 黒き巨人が動きを止める。


 ⸻


「今です!」


 ⸻


 セレスが叫ぶ。


 ⸻


 アークとヴァイスの目が合う。


 ⸻


 一瞬だけ。


 ⸻


 言葉はいらなかった。


 ⸻


 二人とも理解していた。


 ⸻


 同じ場所を狙う。


 ⸻


 同じ敵を倒す。


 ⸻


 アークが走る。


 ⸻


 蒼空のレガリアが輝く。


 ⸻


 風が集まる。


 ⸻


 ヴァイスも跳ぶ。


 ⸻


 黒い剣に闇が宿る。


 ⸻


 二つの光。


 ⸻


 蒼。


 ⸻


 黒。


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 交差する。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 同時に核へ到達した。


 ⸻


「はあああああっ!」


 ⸻


「――斬れ」


 ⸻


 蒼と黒。


 ⸻


 二つの刃が核を貫く。


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 世界が揺れる。


 ⸻


 赤い光。


 ⸻


 悲鳴のような音。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 核が砕けた。


 ⸻


 黒き巨人の動きが止まる。


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 数秒。


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 沈黙。


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 やがて。


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 巨体は崩れ落ちた。


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 轟音。


 ⸻


 黒い粒子となって消えていく。


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 勝った。


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 誰もがそう思った。


 ⸻


 しかし。


 ⸻


 マルクトだけは笑っていた。


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「素晴らしい」


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 本当に嬉しそうだった。


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「予想以上です」


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 ヴァイスの表情が険しくなる。


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 何かがおかしい。


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 そして。


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 マルクトはセレスを見る。


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 正確には。


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 星記のレガリアを見る。


 ⸻


「二つ目」


 ⸻


 小さく呟く。


 ⸻


 その言葉に。


 ⸻


 アイリスの顔色が変わった。


 ⸻


 二つ目。


 ⸻


 まるで。


 ⸻


 最初からそれが目的だったように。


 ⸻


 マルクトは微笑む。


 ⸻


「蒼空」


 ⸻


「星記」


 ⸻


 指を折る。


 ⸻


 そして。


 ⸻


「順調です」


 ⸻


 その言葉を残し。


 ⸻


 黒い光の中へ消えた。


 ⸻


 静寂。


 ⸻


 残されたのは不気味な違和感だけ。


 ⸻


 アークは理解できなかった。


 ⸻


 だが。


 ⸻


 ヴァイスだけは知っていた。


 ⸻


 マルクトの狙いを。


 ⸻


 そして。


 ⸻


 それが最悪であることを。

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