第二十話 災厄の瞳
空が消えた。
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巨大な黒い瞳。
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それだけで十分だった。
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誰も動けない。
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誰も声を出せない。
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ただ見上げる。
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本能が警鐘を鳴らしている。
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逃げろ。
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見てはいけない。
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関わるな。
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それなのに目を離せない。
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圧倒的な存在感だった。
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「ネフィリム……」
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アイリスの声が震える。
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その名前を聞いた瞬間。
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アークの頭に激痛が走った。
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ズキッ――
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今までとは比べ物にならない。
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視界が真っ白になる。
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崩壊した大地。
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燃える空。
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無数の死体。
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絶望。
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そして。
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あの瞳。
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世界を覆う巨大な瞳。
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『まだ終わっていない』
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誰かの声が聞こえる。
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『封印が崩れる』
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『急げ』
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知らないはずの記憶。
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だが。
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確かにそこにあった。
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アークは膝をつく。
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「アーク!」
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アイリスが駆け寄る。
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セレスも慌てて支える。
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「大丈夫ですか!?」
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答えられない。
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頭の中が記憶で溢れていた。
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その時だった。
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空の瞳が消える。
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まるで幻だったかのように。
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黒い雲も消えていく。
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静寂。
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誰もが呆然としていた。
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しかし。
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マルクトだけは笑っている。
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満足そうに。
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嬉しそうに。
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「見ましたか」
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誰に向けた言葉なのか。
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全員へだった。
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「偉大なる存在を」
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ヴァイスが剣を向ける。
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「黙れ」
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マルクトは肩を竦める。
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「まだ完全ではありません」
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「だからこそ価値がある」
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その言葉に。
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アルドの顔色が変わる。
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「まさか」
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「封印を解こうとしているのか」
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マルクトは笑う。
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否定しない。
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つまり答えだった。
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セレスが息を呑む。
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「正気じゃない……」
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「正気ですよ」
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即答だった。
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そして。
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「世界は一度終わるべきです」
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狂っていた。
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だが。
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本人は本気だった。
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だからこそ恐ろしい。
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その時。
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星記のレガリアが強く輝く。
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蒼い本。
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空中でページが開く。
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無数の文字。
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無数の記録。
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千年分の歴史。
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全てが溢れ出す。
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アイリスが顔を上げる。
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ヴァイスも気付いた。
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「まずい」
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珍しく焦っている。
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そして。
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レガリアは反応する。
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誰かに。
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一直線に。
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蒼い光が伸びる。
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アークではない。
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アイリスでもない。
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セレスだった。
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「え?」
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本人が一番驚いていた。
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蒼い光が彼女を包む。
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本が浮かび上がる。
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周囲に古代文字が現れる。
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まるで祝福するように。
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アルドが目を見開く。
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「継承者……!」
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セレスは理解できていない。
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だが。
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本能で分かった。
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頭の中へ知識が流れ込んでくる。
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知らない歴史。
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知らない文明。
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知らない世界。
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全てが。
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「きゃああああっ!」
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セレスが叫ぶ。
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光が爆発する。
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そして。
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その手の中に一冊の本が現れた。
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蒼く輝く魔導書。
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星記のレガリア。
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第二のレガリアだった。
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静寂。
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誰もが息を呑む。
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セレス自身も。
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震える手で本を見つめていた。
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その時。
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マルクトが笑った。
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「やはり」
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その目は細められる。
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「予定通りですね」
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嫌な予感がした。
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ヴァイスも同じだった。
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そして。
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遅かった。
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マルクトの足元に巨大な魔法陣が広がる。
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黒い光。
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禍々しい気配。
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「退け!」
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ヴァイスが叫ぶ。
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次の瞬間。
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地面が割れた。
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巨大な腕が現れる。
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黒い結晶で覆われた異形。
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人ではない。
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魔物でもない。
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もっと別の何か。
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マルクトは笑う。
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「さあ」
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「第二幕の始まりです」
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その言葉と共に。
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セレスティアを揺るがす新たな戦いが始まった。




