第十六話 黎明の五英雄
書庫の空気が静まり返る。
⸻
誰も口を開かない。
⸻
アルドの言葉を待っていた。
⸻
千年前。
⸻
アルカディアが滅びかけた。
⸻
そんな話は神話でしか聞いたことがない。
⸻
だが。
⸻
今までの出来事を考えれば。
⸻
笑い飛ばせる話でもなかった。
⸻
アルドは机の上へ一枚の古い地図を広げる。
⸻
今のアルカディアとは違う。
⸻
もっと大きい。
⸻
もっと広い。
⸻
そして。
⸻
どこか壊れている。
⸻
「これが千年前の世界だ」
⸻
セレスが息を呑む。
⸻
「本物ですか……?」
⸻
「写本だがな」
⸻
アルドは頷く。
⸻
「当時の記録を元に作られている」
⸻
アークは地図を見る。
⸻
すると。
⸻
まただった。
⸻
ズキッ――
⸻
頭痛。
⸻
知らない景色。
⸻
巨大な都市。
⸻
青い空。
⸻
笑い声。
⸻
そして。
⸻
炎。
⸻
崩壊。
⸻
悲鳴。
⸻
映像が流れ込む。
⸻
まるで。
⸻
自分がそこにいたように。
⸻
「くっ……」
⸻
頭を押さえる。
⸻
アイリスが心配そうに覗き込む。
⸻
「アーク」
⸻
「平気だ」
⸻
嘘だった。
⸻
全然平気じゃない。
⸻
しかし。
⸻
話は続く。
⸻
アルドは地図の中央を指差した。
⸻
「天裂の災厄」
⸻
その言葉が出た瞬間。
⸻
アイリスの肩が僅かに震えた。
⸻
誰も気付かなかった。
⸻
アーク以外は。
⸻
「それが世界崩壊の名前だ」
⸻
「ネフィリムと関係あるんですか」
⸻
セレスが聞く。
⸻
アルドは頷いた。
⸻
「ある」
⸻
そして。
⸻
「全ての始まりだ」
⸻
部屋が静まり返る。
⸻
アルドは古い本を開く。
⸻
そこに描かれていたのは六人。
⸻
五人ではない。
⸻
六人だった。
⸻
アークは目を見開く。
⸻
中央に立つ青年。
⸻
蒼い剣。
⸻
深い蒼色の髪。
⸻
どこか自分に似ていた。
⸻
「この男がアルト」
⸻
「黎明の五英雄のリーダー」
⸻
アークの鼓動が早くなる。
⸻
アルト。
⸻
夢で何度も見た男。
⸻
間違いない。
⸻
「そして」
⸻
アルドが隣を指差す。
⸻
白銀の髪の少女。
⸻
優しそうな笑顔。
⸻
アイリスにそっくりだった。
⸻
「創世の巫女リシア」
⸻
アイリスが目を伏せる。
⸻
何かを知っている顔だった。
⸻
だが。
⸻
まだ何も言わない。
⸻
アルドは説明を続ける。
⸻
「騎士ヴォルグ」
⸻
大剣を持つ大男。
⸻
グレンに少し似ていた。
⸻
「賢者エルナ」
⸻
本を抱えた女性。
⸻
セレスが目を輝かせる。
⸻
「学者だ……!」
⸻
そこか。
⸻
「盗賊レイ」
⸻
笑っている少年。
⸻
フィンにそっくりだった。
⸻
「なんか嫌だな」
⸻
本人は不満そうだった。
⸻
そして。
⸻
アルドの指が最後の人物へ移る。
⸻
黒いコート。
⸻
鋭い目。
⸻
長剣。
⸻
「第六の英雄」
⸻
その名前を聞いた瞬間。
⸻
空気が変わった。
⸻
「ノクト」
⸻
アークの頭に浮かぶ。
⸻
白銀の髪。
⸻
金色の瞳。
⸻
ヴァイス。
⸻
アルドは静かに続ける。
⸻
「だが歴史から消された」
⸻
「消された?」
⸻
グレンが聞く。
⸻
「そうだ」
⸻
アルドは頷く。
⸻
「現在の歴史書には存在しない」
⸻
セレスが驚く。
⸻
「なぜですか」
⸻
長い沈黙。
⸻
やがて。
⸻
アルドは答えた。
⸻
「裏切り者だからだ」
⸻
部屋が静まり返る。
⸻
アークは息を呑む。
⸻
裏切り者。
⸻
ノクトが。
⸻
「しかし」
⸻
アルドは言葉を続ける。
⸻
「私は違うと思っている」
⸻
「え?」
⸻
「資料が合わない」
⸻
学者らしい答えだった。
⸻
感情ではない。
⸻
記録。
⸻
証拠。
⸻
それが合わない。
⸻
「誰かが歴史を書き換えた」
⸻
その言葉に。
⸻
全員の背筋が寒くなる。
⸻
千年前の真実。
⸻
英雄たち。
⸻
消された存在。
⸻
そして。
⸻
ヴァイス。
⸻
全てが少しずつ繋がり始めていた。
⸻
その時だった。
⸻
ドォォォォォン!!
⸻
突然。
⸻
図書館全体が揺れた。
⸻
本棚が震える。
⸻
悲鳴が響く。
⸻
窓ガラスが鳴る。
⸻
「なっ!?」
⸻
フィンが立ち上がる。
⸻
アルドも顔色を変えた。
⸻
ただ事ではない。
⸻
再び衝撃。
⸻
ドォォォォン!!
⸻
今度はもっと近い。
⸻
セレスが窓へ駆け寄る。
⸻
そして。
⸻
絶句した。
⸻
「そんな……」
⸻
アークたちも窓を見る。
⸻
セレスティアの空。
⸻
そこに。
⸻
巨大な黒い翼が広がっていた。
⸻
一体ではない。
⸻
十体。
⸻
二十体。
⸻
いや。
⸻
数え切れない。
⸻
黒い魔獣の群れ。
⸻
街へ向かって飛来している。
⸻
そしてその中心。
⸻
雲の向こうに。
⸻
城のような巨大な影が浮かんでいた。
⸻
アルドが青ざめる。
⸻
「馬鹿な……」
⸻
その声は震えていた。
⸻
「まだ早すぎる」
⸻
誰に言ったのか分からない。
⸻
だが。
⸻
その表情だけで理解できた。
⸻
最悪の事態だと。
⸻
セレスティアが襲われる。
⸻
そして。
⸻
第二のレガリアを巡る戦いが始まる。




