第十四話 天空学術都市セレスティア
リベルタを出発して三日。
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空船は雲海の上を進んでいた。
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目的地はセレスティア。
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学術都市。
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知識の都。
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そして。
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セレスの故郷。
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「帰るの久しぶりか?」
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アークが聞く。
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セレスは頷いた。
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「二年ぶりです」
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「そんなに?」
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「研究で各地を回ってましたから」
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フィンが呆れた顔をする。
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「十九歳で家出みたいなことしてんのか」
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「学術調査です」
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即座に訂正された。
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しかし。
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グレンもフィン側だった。
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「家出だな」
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「違います!」
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船内に笑いが広がる。
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アイリスも少しだけ笑った。
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最近。
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彼女はよく笑うようになった。
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アークはそれが嬉しかった。
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出会った頃のアイリスは。
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どこか壊れそうだったから。
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その時だった。
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船員が叫ぶ。
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「見えてきたぞ!」
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全員が窓へ向かう。
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そして。
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アークは息を呑んだ。
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巨大だった。
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空に浮かぶ白い都市。
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何本もの橋。
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何十もの塔。
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巨大な時計塔。
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そして。
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都市全体を覆うように建てられた大図書館。
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まるで空に浮かぶ王国だった。
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「すげぇ……」
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自然と声が漏れる。
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リベルタも大きかった。
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だが。
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雰囲気が違う。
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ここは知識の街だった。
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セレスが少し誇らしそうに言う。
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「ようこそ」
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「天空学術都市セレスティアへ」
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数時間後。
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空船は港へ到着した。
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街へ降りる。
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すぐに分かった。
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この街は変だ。
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良い意味で。
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歩いている人の多くが本を持っている。
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道端で議論している。
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広場で講義をしている。
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子供まで本を読んでいる。
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フィンが顔を引きつらせた。
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「息苦しい」
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「失礼ですね」
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セレスが抗議する。
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しかし。
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アークも少し同意だった。
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本が多すぎる。
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すると。
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セレスが歩き出す。
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「まずは図書館です」
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やっぱりだった。
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セレスティア中央図書館。
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それはもはや建物ではなかった。
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城だった。
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高さだけで十階以上。
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無数の書庫。
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無数の資料。
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何百万冊あるのか想像もできない。
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フィンが絶望した顔をする。
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「終わった」
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「何が」
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「ここ全部調べるの?」
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「そんなわけないです」
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さすがのセレスもそこまでは言わない。
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たぶん。
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図書館へ入る。
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すると。
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受付にいた老人が顔を上げた。
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白髪。
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眼鏡。
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優しそうな顔。
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そして。
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セレスを見るなり固まった。
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「セレス」
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「先生!」
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セレスが駆け寄る。
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どうやら知り合いらしい。
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老人は深くため息を吐いた。
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「また危険な遺跡に潜っていたな」
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「なぜ分かるんですか」
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「顔だ」
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慣れていた。
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完全に慣れていた。
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アークは苦笑する。
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すると。
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老人の視線がこちらへ向く。
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正確には。
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アークではない。
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腰に下げた蒼空のレガリアだった。
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老人の顔色が変わる。
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一瞬で。
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空気が変わった。
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「その剣は」
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低い声だった。
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今までとは違う。
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アークは無意識に剣へ手を添える。
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老人はしばらく沈黙する。
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そして。
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静かに言った。
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「奥へ来なさい」
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セレスが驚く。
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「先生?」
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老人は答えない。
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ただ。
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蒼空のレガリアを見つめ続けていた。
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まるで。
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昔から知っているように。
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その頃。
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セレスティアの最上層。
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巨大な塔の頂上。
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白銀の髪を揺らしながら。
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ヴァイスが街を見下ろしていた。
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その隣にはリリア。
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リリアは空を見上げる。
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「本当にここで目覚めるの?」
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ヴァイスは答える。
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「間違いない」
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金色の瞳が細められる。
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「第二のレガリアはここにある」
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そして。
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「星記のレガリアが」
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物語は次の段階へ進もうとしていた。




