第十話 蒼空の遺跡
遺跡の入口に立つと、空気が変わった。
外は暖かかった。
だが中から流れてくる風は妙に冷たい。
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「なんか嫌だな……」
フィンが素直に言う。
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「今さらですか?」
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「いや、だって普通に怖いだろ」
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それにはセレスも反論できなかった。
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正直。
アークも少し怖かった。
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だが。
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足は止まらない。
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遺跡の奥から何かが呼んでいる気がした。
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「行こう」
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グレンが先頭へ出る。
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大剣を肩に担ぐ。
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「俺が前に立つ」
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「了解」
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アークが続く。
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アイリス。
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セレス。
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フィン。
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五人は遺跡へ足を踏み入れた。
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内部は予想以上に広かった。
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石造りの通路。
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高い天井。
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壁には見たことのない文字。
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セレスの目が輝く。
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完全に研究者の顔だった。
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「すごい……」
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「仕事中だぞ」
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グレンが釘を刺す。
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「分かってます!」
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分かっていない顔だった。
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しばらく進む。
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すると。
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アークの視線が止まる。
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壁の文字。
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自然と意味が頭へ流れ込んできた。
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『蒼空は巡る』
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『希望は受け継がれる』
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『選ばれし者へ』
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アークは無意識に読み上げる。
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セレスが固まる。
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「やっぱり読める……」
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「俺にも理由は分からない」
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「その方が怖いです」
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それはそうだった。
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その時。
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アイリスが立ち止まる。
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「どうした?」
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アークが振り返る。
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アイリスは壁へ触れていた。
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その表情は少し苦しそうだった。
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「ここ」
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「知ってるのか?」
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「違う」
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首を振る。
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「知らない」
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でも。
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「懐かしい」
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その言葉に誰も返事ができなかった。
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彼女自身も困惑している。
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まるで記憶ではなく。
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魂が覚えているような感覚。
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そんな風に見えた。
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さらに奥へ進む。
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やがて通路が終わる。
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広間だった。
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巨大な空間。
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中央には祭壇。
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その上には蒼い結晶が浮かんでいる。
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美しかった。
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まるで空を閉じ込めたような色。
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アークは思わず見入る。
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その瞬間。
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結晶が光った。
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眩い蒼光。
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遺跡全体が震える。
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「なっ!?」
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セレスが声を上げる。
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アイリスの顔色が変わる。
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そして。
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アークの胸が熱くなる。
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心臓が暴れる。
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頭の奥で何かが目覚めようとしていた。
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その時だった。
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ゴゴゴゴゴ……
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低い音。
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祭壇の前の床が割れる。
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巨大な影が姿を現した。
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石でできた騎士。
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高さは三メートル以上。
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蒼い光を宿した両目。
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巨大な剣。
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まるで遺跡の守護者だった。
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フィンが顔を引きつらせる。
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「聞いてないぞ!」
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「私もです!」
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セレスも叫ぶ。
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グレンは既に剣を抜いていた。
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「来るぞ」
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守護騎士が一歩踏み出す。
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轟音。
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地面が揺れる。
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圧倒的な存在感。
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普通の魔物ではない。
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アークにも分かった。
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強い。
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今まで戦った相手とは別格だ。
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守護騎士が剣を構える。
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その切っ先が。
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真っ直ぐアークへ向いた。
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「なんで俺!?」
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フィンが即座に後退する。
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「頑張れ!」
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「お前も戦え!」
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そんなやり取りすら一瞬だった。
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次の瞬間。
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守護騎士が突撃する。
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広間が震える。
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アークは剣を抜いた。
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頭の奥で声が響く。
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夢の中で何度も聞いた声。
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『恐れるな』
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『蒼空はお前を選んだ』
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そして。
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祭壇の蒼い結晶が。
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アークへ向かって輝き始めた。




