新手達
前回の出撃は敗北だった。
それは誰から見ても間違えようの無い事実であり、素人目ながら僕もそう捕らえていた。
まあ、『コーアズィ』の取り合いで先を越されるなんていつものことではあるが。
「色々と壊されやがって……」
「交換する身にもなってくれ……」
「……すみません。《プライング》、接近戦に持ち込まれたら対応出来ないんです」
そう、リンクス技術者のバレットさんと整備班長のゴーティエに頭を下げる。
《プライング》は今回の出撃で、また貴重なハードポイント変換ユニットと連装ロケット《ビーハイブ》をパージして紛失。左腕のブレードライフルも壊されて投棄。
試製近距離戦闘システムも、シールドとして二度だけ相手の攻撃を防いだからか、その展開機構のフレームと85ミリ連装砲が深刻なレベルでひん曲がっていた。
武装に関しては、何かあるといつも捨てたり壊したりしているので、もう様式美扱いされている。若干諦められているかもしれない。
《プライング》本機はといえば。右肩は、ブレードがかなり深く突き立てられていて、やはり内部まで破壊されていて肩から交換しなければならない。
そして、ライフルごと破壊された衝撃が原因だろう、左腕のフレームに歪みが検出された。これも大事を取って肩から交換だ。
いつぞやの無人機の時ほどではないが損傷は多く、なかなかなダメージ具合だった。
「わかってるけどよ、明日丸一日は出撃出来ないからな? そこはよく覚えて置くように」
ゴーティエ曰く、予備パーツはあるのだが装甲は未塗装だという。
「ご迷惑おかけします」
「ブレードライフルほ予備はもう無いから、しばらくは別のライフルだぞ? 発注はしとくけどな」
破壊されたブレードライフルは、あれが最後だったらしい。
「はい、お願いします」
たびたび、僕は頭を下げるのだった。
デブリーフィングも反省会的なものかと思えば、今回はそうでもない。
フォントノア騎士団、リンクス部隊の全小隊が会議室に集まって、大きなモニターの前で、
「先程の出撃はご苦労だった。訓練中だったとはいえ、ラファール小隊のスクランブルと援護がなかったら死人が出てた。ここで礼を言う」
まず、ベルナデットさんがそう口を開いた。
「まあ、敗北なのは敗北なんだが、本日の議題は反省会とかそれじゃあない。―――敵エース機が三機確認された」
そう言って、手元のノートパソコンを操作して大画面に三枚の画像が表示された。
左隅に写る一機は通称 《銀狼》。白と灰色の装甲を持つ全身にブースターを取り付け、スマートでヒロイックな外観をもつ帝国の新型リンクスだ。
中央の画像には、これまたゴツいリンクスが。
一言で説明するのであれば、全体的に黒く塗装され重装甲を施された円錐状の突撃槍を持った騎士、が最適かもしれない。右腕にはリンクスと同等の全長のランス。左手には六角形の角張ったシールドを持っている。両肩にはシールドなのか、箱型のユニットが肩の装甲として一体化しており、はた目には肥大化したかのように見える。脚部は膝から下がブースターの影響か、リンクスとしてはかなり太い。
最後の画像に写るリンクスは、基本的に青く塗装され、針金人形のように細い。
見るだけでどこにコクピットやらジェネレーターやら収納されているのか不思議になるほどだ。他の特徴はといえば、背中と腰に取り付けられた安定翼付きのブースターユニットらしき物ぐらいか。
右手に切り詰められた銃身を持つライフルと、左腕にシールドとしては細い盾と両刃型のブレードを装備している。
「先程の戦闘で確認されたリンクスだ。今後戦闘することになるだろうから、その対策を立てるぞ」
そうベルナデット団長が言って、まずは因縁ある《銀狼》の戦闘映像が流れる。
映像は、《プライング》合流前の戦闘。《マーチャーE2型》の頭部カメラが撮影したものだ。
ただ―――。
《プライング》と同様、消えたと表現しようがない、従来のリンクス以上の高機動性を持つ機体の高速戦闘である。
カメラが追い付かず、辛うじて捉えているという撮影状況だった。クイックブースト時のプラズマの残光を追いかけている、とでも言おうか。
何とかFCSがロックオンしても、発砲と同時に振り切られてしまっている。
一瞬で距離を詰められ、ブレードを振る……と見せかけて後ろにへとまわり、下りながら一閃。
撮影していた機体が衝撃で揺れたが、どうやらそこまで深手ではなかったようで、盾を前にして下がる。
そういえば何機か、右腕切られてたなと思い出した。その《マーチャー》の内の一機だろう。
「スピードが《プライング》と同等かそれ以上だ。《プライング》との模擬戦してなかったらやられてたな」
ベルナデット団長はそう思い返す。
「それにだが……。なんかチハヤと動きが似てんだよな。乱数機動で避けているように見えてその実、ギリギリまで惹き付けてクイックブーストしてるし。チハヤほどじゃないが、正面からよりも死角から襲い掛かってくる」
そう言われて、僕はそうだろうなと思った。
もし、僕の予想が正しければ―――。
「チハヤ、ある程度わかった相手の戦闘スタイルとか、言って貰っても?」
隣に座っていたアルペジオが、そう発言を促す。
「えっ、ああ。うん。彼女の戦闘スタイル、ね」
思考し始めた僕は突然の話の振りに驚きながらも、ぽつぽつと戦って思っている事を言う。
「相手は見ての通り近接格闘が得意で、《プライング》と同等かそれ以上に速い。小回りが効くのかな? そんな機体で運動性能もそれ向き。機体の全身に配置されたブースターのお陰か、どんな姿勢でも速度を落とさないあたり、パイロットの技量は半端じゃないと思う。こっちの射撃は全て避けたし。武装は右腕に装備した実体剣とマシンガンと盾の複合兵装と、左腕の盾。あとは細いブレード二本。誰が見ても接近戦特化な機体とパイロットだ」
思い返しながらも、僕は相手の特徴を言い並べていく。可能性という余計なことは口にはしない。
「あと、格闘戦が苦手な《プライング》とは相性が悪い。近接武器持ってたとしても、あまり相手したくない」
代わりに素直な感想を述べる。
「―――次に、中央の画像のヤツ。こいつは右肩にエンブレムじゃなくて家紋が描かれてたからすぐに判ったぞ。『ブシュシュルテ家』の者だ」
画面が切り替わり、先程の画像―――厳つい重装甲のリンクスが映された。
「『ブシュシュルテ家』って、有名なの?」
「帝国でも、優秀なパイロットを輩出する名門貴族よ。リンクス研究者とも報道されているわね。その息女―――の一人でしょうね」
「へぇ……」
アルペジオの簡易的な説明を聞いて、再度モニターを見る。
「機体名は《アルメリア》。それ以上のデータは無かったが、今回でいろいろ判明したから、結果オーライかね?」
そう言って団長はまた端末を操作する。今度は映像が流れていて、また交戦している《マーチャー》視点だった。
映像の景色の流れ方からして、《マーチャーE2改》だ。散弾を放ったので、エリザ機でもあるか。
《アルメリア》はそれほど速くないのか、始終《マーチャーE2改》に張り付かれていた。
ただ。
《アルメリア》は最低限のブースト機動でエリザの攻撃を避け、シールドで砲弾を受け止める。
ランスの切っ先を《マーチャー》に向けて、側面に空いた穴から砲弾が飛び出した。
「ランスと射撃武器の複合装備?」
映像を見たままの感想を呟く。
それだけでは終わらない。
シールドを正面に構え、突貫。
肩のユニットや足の肥大化したそこから、推進剤が撒き散らされる。
その鈍重な見た目とは裏腹に、凄い勢いで接近していく。
その勢いのまま、ランスによる突きが繰り出された。
エリザ機は上に跳んでこれを回避したのか、地面が一気に遠ざかる。
反転して、左腕に取り付けた機関砲が撃たれる。
《アルメリア》は寸前で振り返りシールドと、膝の装甲が上下にスライド、一枚の防盾を展開し六〇ミリの砲弾が弾かれる。
エリザさんが言う。
「膝の装甲、薄いですけれどシールドでしょうね。あの厚さで60ミリを弾くのは驚きましたわ」
リンクスの平均装甲防御力(装甲を貫通せずに防げる能力)は70ミリ前後とされる。
《マーチャーE2型》で65ミリ相当、《プライング》で50ミリ相当だ。
なので、60ミリ口径なら大抵は突き刺さるのだが《アルメニア》の膝のシールドはそれを弾いたのである。
「技研に映像を送っているが、結論は当分先だろうな。何らかの新素材か、新技術が用いられたのは間違いないな」
団長はそう言って、また画面を切り替えた。
今度は針金人形のように細い、青いリンクスだ。
「コイツは、初めて確認された機体だ。詳細は不明だが……」
その次の言葉を、アルペジオが続けて言った。
「乗ってる人間……男よ」
曰く、外部スピーカーから話しかけてきたらしい。
その映像も流される。
《マーチャーE2改》がシールドを構え突撃。
ライフルを仕舞い、肩のバードポイントに保持したブレードを引き抜き、青いリンクスへと斬りかかる。
敵機もブレードを抜いてそれを受け止める。
間髪入れずに蹴りが入り、アルペジオ機は距離を離される。
敵機がライフルを構えるのを見て、すぐさま回避のためにクイックブーストする。
『いい動きじゃねぇか! えぇ? お嬢さんよぉ!』
外部スピーカーから、男の声がした。チンピラのような、柄の悪い口調だった。
左手にライフルを構え、射撃しながら接近してくる。
対するアルペジオはシールドを構えてブースト機動で突撃しつつ、左右へ機体を振って被弾を抑える。
アルペジオ機と敵機が、実体剣で切り結ぶ。
正面からの斬り合い。
斬りかかる―――と見せかけて、回り込み。
フェイントを仕掛けては返される、そんなやり取り。
アルペジオの動きに、彼は遅れる事なく対応していた。
「本当に男性が操っているの?」
エリザさんがアルペジオに訊ねる。
リンクスに使われているシステム、《links》は男性と女性とで動作のレスポンスやパイロットの脳への負荷が違う。同じ機体でも、男性より女性の方が性能を引き出せる。
それ故に、疑う。
「男よ。間違いなく。何度も話しかけてきたわ」
心底嫌そうに言うアルペジオ。品のない男はお断りのようだ。
「《プライング》みたく、AI搭載しているのか?」
「それはない、と思います」
団長が推測を立てたが、僕がそれに否定をかける。
「あの機体が《プライング》と同じようなAIをクッションにして動かす機体なら、いくら骨格が人に近くなっても格闘戦は遅れるはず」
なのに、相手は通常リンクス相手に互角に戦っている。
「何らかの技術的ブレイクスルー? こればかりは映像じゃわからないな」
団長はそう言って、対策の話へと切り替えていった。
僕にはHALに言っても、話してくれなさそうな気がした。




