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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第五章]来訪者たち
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健康診断、判明すること



 イオンと名乗る少女を保護してから数日が経った。


 異世界から来た人の今後なんぞ以前語ったと思うが、それとは違う事を語るとしよう。


 保護されてまず何をしていくか、である。


 まず、保護されてからすぐにその人の置かれた状況を話すことから始まる。これが言葉の違いでなかなか伝えれない、伝わらないのだが今回はツイていた。偶然にも彼女は同じ言語(本人曰くイタリア語ではなくチェアーノ語だとか)を使える(ぼく)が居たからで、通訳によって難なくイオンさんが置かれた状況を伝える事が出来たのである。


 まあ、簡単に語っているけれど、実際は大変なことである。


 何せ、イオンさん自身、そんな人生五回ひっくり返しても起こりえないような現象に遭遇して、歴史から異なる世界に転位したのだ。


 最初話した時なんかそんな訳がない、歴史書は無いのか等と言われて、完全に自分が異世界にいる事を否定していたが、本を見せて以降はだんまりだ。



 その次は検疫。採血や尿まで出来る検査はとことんやる。得体のしれない病気を広められては世界的にも滅び兼ねないのである。冗談にも聞こえるが、真面目な話だ

 その昔、《ノーシアフォール》から『生ける屍』なるものが大量に現れて、噛まれた人が片っ端から『生ける屍』となって押し寄せかけた事があったらしい。

 遭遇した騎士団に同行していた異世界人がそれの対処法を知っていて、即座に 対 応 と 消 毒 が行われ、感染拡大を防ぐ事が出来たのだとか。

 仲の悪い帝国にも事件の仔細を公開し、対処法を教えた辺りかなり衝撃的な事件だったようで、以後防疫も病的にやるようになったらしい。


 勿論、彼女も防疫の観点から各種健康診断、血液や尿の検査等をしてもらった。まあ、例によって例の如く得体のしれない機械に通されたり注射器等を見て怯えたり、検尿の際はこれでもかというほど屈辱的な表情をしていたが。



 ――――語る分には簡単である。実際には。



「―――だからって、一緒にやって緊張をほぐしてなんて方法使うかな?」


 注射針の刺さった自分の左腕を見ながら、僕は思わず呟いた。そこからカテーテルが伸びて、薬剤の入った試験管に血液が貯まっていく。


 他にも理由はあるが、それは後に語るとしよう。


『よく、平気でいられる……』


 隣から、項垂れた様子のイオンさんから話しかけられた。僕と同様に血液を抜かれているが、視線は反らしている。針の刺さっているところを見たくないのだろう。


『元居た世界でも、似たことしてますので』


『………私が居た世界も、いずれこのような事をやるようになるのかと思うと気が滅入る』


 彼女はどうやら、服装や価値観等から文明レベル的に中世の世界から来た可能性が高い。注射器なるものを見たことが無い、とかが最もたるかもしれないが、他にも移動手段は馬か船か自らの足かと言われればもうわかったも同然か。


『麻酔受けてからお腹に刺さった刃物を引き抜いて、ちょっとお腹引き裂いて内蔵の傷も縫ったりする事がある。ちゃんと元通りにしてくれるからいいけど』


『それ以上は言わないでほしい。本当に』


 そう彼女は言って顔を背ける。この手の話は苦手なのかもしれない。

 淡々とした口調の彼女だが意外にも饒舌多弁で、表情や感情は豊かだ。





「これに――――」


『――――このカップの、この線まで、貴女の排泄した、尿を入れて下さいって』


 医療施設で検査目的じゃなかったら大問題の発言を通訳で言わないといけないとか、セクハラか何かだと思えてしまう。幸いなのはこれが通訳であること。言った張本人が女性のお医者様ってことか。


 これを聞いたイオンさんは信じられないものを聞いたような顔で聞き返してきた。


 曰く、通訳は間違ってないか?


 極力正確に、例えどんなに退かれるような言葉でもそのまま口に出さないといけないって辛いって遠回しに答えたら、彼女はそのまま固まってしまった。


『なんとしても必要か』


「防疫の観点から……。必要なんです」


 なんとか納得して頂いてトイレの位置を教え、洋式トイレの使い方を教え、お医者様に提出して貰った。


 この時のイオンさんの表情はもう屈辱的だった。それはもう、二度としてたまるか的な表情でもあった。


 こうまでして見ると、意外と僕ら現代人は条件次第ではある意味訓練されてるのだなぁ、と思える。


 医療レベルの差を見せられた、のかもしれない。





 ただ、一緒に受けたからこそ気づくものが、あった。



 ――――少し時間は戻って血液採取前。



『これを脇に挟むんです。服の内側に』


 デジタル式の体温計をイオンさんに渡し、説明しつつ首もとから入れて脇に挟む。


『そう、そんな感じ。しばらくすると音がなるのでそしたら出して下さい』


『ふむ。これで何が分かるのだろうか?』


『体温を計ります。風邪をひくと熱が出るでしょう? それを調べる為のものです』


 簡潔に説明しつつ、待つことしばし。


 ピピッ、という電子音が僕とイオンさんからほぼ同時に鳴った。


 イオンさんは体温計を取り出して、医官にそれを差し出す。受け取った医官は平熱ね、と言ってその数字を用紙に書き出す。


「36度6分……ね。チハヤさんは?」


「………もう一回いいです?」


 健康診断なんて必要ないだろうと思っていたが、そうでもなかったようだ。体温計の表示を見て、計り方ミスったかなと思う程度に平熱より低かったのである。


 体温計をリセットして、再度測る。


「………34度7分。風邪ひいたかな?」


 先程と同じ数字が出た。普通に考えてもこれは低いだろう。


 これを見た医官はよく病院でやるような喉を見たり、聴診器で心臓の鼓動の音や呼吸した時の肺の音、果てには消化器官系の内臓の音まで見て、


「寒気とははある? 吐き気とか、めまい。頭痛とはは?」


「いや、特に何も」


「そうだよね……。見たところ冷たい以外はおかしなことは無いし」

 

 ペタペタと頬を触りながら医官は触診による診断を告げる。

 体温以外は健康体なのだ、と。


「ついでに、不安がちなイオンちゃんと一緒に診察を受けるか! 物はあるから!」


 この一言で僕はイオンさんと一緒に診察を受けるはめになるのだった。



 結論から言えば、基地の医療施設の設備すべてを使っても、低体温気味の理由はわからなかったのだが。

 


 

 

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