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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
黎明を征く
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反故




 その都市はノールという都市だった。


 平野部を流れる川の東岸に造られた、よく見られる都市だ。


 歴史を辿れば―――最初は小さな農村が生まれたことから始まり、年月と共に発展して町になり。


 飢餓や戦争に巻き込まれながら防壁を造り街となり、他国に併合されながらも発展を続けてビルがいくつも立ち並び、都市と都市を繋ぐ道路と線路が交わる都市だった。


 そして、その都市からは黒い煙が立ち上り、その根本では自動車や廃材が燃えており、建物の多くはガラスが割れて壁面にはヒビと穴が空いている。


 誰が見ても催事でないことは確かであり、そうだと言わんばかりに道路を無限軌道の怪音とエンジンの轟音を鳴らして戦車や装甲車が走る。


 その上を、人型機動兵器リンクスが飛び抜けていく。


 まさにノールは戦火の只中にあった。




 ストラスールの一都市、ノール。


 その東。


 建造された当時の姿をそのまま残していた、八メートルにも満たないレンガ造りの防壁は戦闘で既に崩れており、見る影もない。


 瓦礫と化したその上を、二機のリンクスが後ろへの跳躍で飛び越えて行く。


 二機とも同じ機種であり、赤を基調に白の差し色が混じった、曲面の装甲も多く、機体色もあって燃える炎のような機体だった。


 マッシブな骨格をしてるが、曲面が多用された装甲のレイアウトはバランスが良く、ある種の美しさがある。


 肩装甲がやや横に出ている以外は人のそれに近いシルエットの腕部。


 曲面多用の脚部に、ヒールの高いソールユニット。


 頭部はつば部分はやや前に出ていて、ツインアイ方式の光学センサと両の頬に付けられたブレードアンテナは見る人を魅了するのは間違いないだろう。


 一機は銃身下に実体剣を取り付けた大型散弾砲を右手に持ち、左手には小型の盾を装備している。


 背中の懸架ユニットにはアサルトライフルが。


 腰には手持ち式で、かつ両刃式の実体剣を下げており、爪先にも小型の刃物を装着している。


 もう一機も左腰のに実体剣を下げ、銃身下に実体剣を取り付けているものの、その得物は大型ライフルで僚機とは差別化している。


 かつ、左腕に持つのは中央に丸型のユニットが見える湾曲した大型の盾だ。

 

「ラファールリーダー。これは、どういうことですの?」


 散弾砲を持った赤いリンクス《フランベルジュⅡ》に乗る、十代後半の長い銀髪の少女―――エリザはモニターに映る光景と情報を見て隊長機にして戦友でもある彼女へ疑問を投げかける。


 見える影はもちろんリンクスだ。


 しかし、それら機種と識別はここにいるのがあり得ない存在だからこそ、何故という疑問になる。


 一機種の頭部は無難なゴーグルタイプの光学センサだった。


 避弾経始を考慮したのか湾曲した面と傾斜が混ぜられた装甲レイアウト。


 左肩にはシールドを懸架していて左腕はほとんどフリー。


 大腿部はブースターを内蔵した影響か肥大化していて、膝下の細さが機体のアンバランスさを表している。


 クナモリアル独自に建造された主力リンクス、《KL-06 アーバイン》だ。


 頭部は人とそう変わらないが、中央にモノアイ、左右にアイタイプの光学センサの複合式で透明なバイザーでフェイスエクステリアを覆っている。


 そして無骨な胴体に埋もれているという印象を持たされるような、頭部横の左右の装甲。


 他のリンクスと比べると大きい胴体と、それに似合わない、平均的なリンクスと変わらないサイズの手足。


 卵に頭を埋め込んで手足を取って付けたような、と説明すれば適切なグレーの量産機。


 ソルノープル法国が運用する主力機 《FW5 チェトラリー》だ。


 その二機種、二国の識別信号を発する一個大隊規模が今目の前にいる。


 ストラスール国内にも関わらずだ。


『主戦派のヴィーヴィオが考えなしに招き入れたんでしょ!』


 通信相手のラファールリーダー―――アルペジオが忌々しそうに吐き捨て右手の得物をセミオートで連発する。


 八五ミリという口径にしては金切り声のする砲声で―――その一撃が距離を詰めに来ていた一機の《アーバイン》の胸部に直撃する。


 胸部装甲を大きく爆ぜさせ、有り余る被弾の衝撃が敵機を進行方向とは逆の方向へともんどりうって倒させる。


 高初速、高威力な磁気炸薬複合式の超電磁砲の一撃だ。


『それに、わかっていても見ていて気分のいい機体でもないわね、アイツ』


 個別で指摘するその存在にエリザは頷いてその一機しかいない、前に飛び出して来たよく知るリンクスへと視線を向ける。


 それは黒い装甲を纏った機体だった。


 前後に長い胴体に前に突き出るような形の肩部装甲。


 各部の装甲は多くが尖鋭的で一目見て速そうだと思わせるシルエット。


 他のパーツと同じように前に突き出るような頭部の光学センサはX字に並んでおり―――二人から見ても忘れ難い機体のそれだ。


「《プライング》……!」


 クイックブーストで急接近してきた敵機に対して、その機種名を口から出す。


 かつての乗り手が生きていると知っていなければ亡霊のように感じられただろう。


 そう感じないのはかの人物が両腕を失いながらも生きているというのを知っているからだ。


 それでも失われたはずの機体がこうして自分達に差し向けられている状況にエリザは嫌悪感を抱く。


 相手が差し向けたその思惑に嫌がらせじみたものがあると露骨にわかるからだろう。


 ただ二人にとって幸いなのは―――その武装構成がチハヤのそれと異なるが故に、当人と勘違いしないことだろう。


 右手には大剣の柄を取ったような形状の大口径な火砲を装備。


 左手には取り回しの良さそうな銃身を切り詰めたアサルトカービン。


 右背には機関砲を。


 左背には連装式のミサイルポッドが装備されていた。


 その近接戦闘を視野にいれた武装構成は間違いなくチハヤがやるような構成ではない。


 《プライング》は機体の骨格や操縦システム上のプロセスの都合で格闘戦が苦手だ。


 苦手分野で戦わないようライフル二丁が基本の、射撃戦主体の構成を彼は選んでいた。


 そうでないから―――かの機体が別人が駆る機体なのだと迷いなく得物を向ける。


 連装ミサイルから放たれたミサイルを散弾砲の二連射で撃ち落とし、牽制の機銃掃射を乱数機動で躱す。


 回避機動の隙に《プライング》はクイックブーストで一気に距離を詰めてきた。


 右腕が振り上げられるのを見てエリザの《フランベルジュ》は後ろへクイックブーストする。


 大きく振られた刃は装甲を掠めることなく空を斬る。


 二撃目が振られる前にと《フランベルジュ》は右腕の散弾砲を持ち上げて《プライング》へと発砲する。


 一射、二射と連発するもそれはクイックブーストで避けられる。


 しかし放ったのは散弾であり広がる子弾は、散布界にあった部位へと突き刺さっている。


 それも二発とも。


 損傷としては軽いものの確かな被弾だ。


 ―――彼なら避けきったでしょうに。


 乗り手は彼ほどでもないと予想しながらエリザは散弾砲の連射を続けて―――敵機はクイックブーストで跳躍する。


 その横を―――アルペジオの《フランベルジュ》が盾を正面にした突貫でぶつかった。


 《プライング》と大差ない速度でのシールドバッシュは、動きを強引に止めるのには十分だ。


 既に実体剣に持ち替えていたアルペジオ機は金切り音を立てるその得物を迷いなく振り下ろして、《プライング》の左腕と左脚を斬り捨てる。


 刀身を超振動させて切断力を高めた高周波ブレードによる一撃だ。


 空中で姿勢を崩した《プライング》へ、アルペジオ機はトドメと言わんばかりにクイックブーストを併用した脚撃を叩き込んで敵機を地面に激突させる。


 そのまま着地と同時に踏みつけて残った右腕と連装ミサイルを叩き切るのも忘れない。


『紛い物め。失せなさい』


「……ラファールリーダー?」


『ああ、ごめんなさい。あまりにも動きが雑で、つい』


 生きていたとはいえかつて手を掛けた機体だったからか。


 あるいは、稚拙な動きに我慢ならなかったのか。


 怫然としたアルペジオの呟きにエリザは少し冷や汗を掻く。


 ―――癪に障るのは同感ではあるがわからなくもない。


 そう言おうとしたタイミングでコクピットに照準警報が鳴り響く。


 二機の《フランベルジュ》は後ろへクイックブーストと合わせて跳躍し、敵部隊からの驟雨を避ける。


 散弾の距離ではないからと背部に懸架したアサルトライフルへと持ち替え、撃ってきた《チェトラリー》の一機へ発砲する。


 小刻みな連射はすぐに敵機を捉えて胸部に穴を穿ち転倒させる。


 アルペジオ機も同じ考えか、レールガンを連射しており敵機をもんどりうって倒している。


『こちらクラブ! 敵増援が接近してきている!』


 後方にいる早期警戒管制機からの警告が二人の耳に届く。


 データリンクで表示されたレーダーにも映っており、その数は一個中隊はいるだろうか。


 そして識別信号はソルノープル法国のものだ。


『流石にこのままじゃ先行してる部隊に追いつかれるわね……』


 アルペジオの呻きに、エリザは「そうね」と頷く。


 まだ友軍は都市から離れきっていない以上、追撃を引き留める殿が必要だ。


 もっと言うなら近くの穏健派の街まで逃走する難民たちの護衛もある。


 アルペジオが今回率いてきた部隊は中隊規模であり、後の事を考えれば殿で残れる数は、どうしても少なくなる。


 残る人員は、おおよそ助からないだろう。


 ならば、とエリザは口を開いた。


「では―――」


『ラファール04、06、07。私と一緒に敵部隊を引き付けるわよ。ラファール01が指揮を引き継ぎ、残りの人達と共に撤退して』


「―――?!」


 エリザが進言するよりも先に、アルペジオは決断を下した。


 アルペジオが残る。


 その意味をエリザがわからない訳がなかった。


「待ってくださいまし?!」


『私が残る方が相手を引き付けられるはずよ。なにせ、シェーンフィルダー家の一人でアリア姉さまの側近みたいな立場だもの。見逃さないわけないわ』


「だからこそあなたは撤退するべきでしょう?! あなたも穏健派にとって重要な人物でして?!」


『そうだけど私が難民についていったら追撃も、待ち伏せもされる可能性が高くなる』


 敗走した穏健派の重要人物が難民という足手纏いと行動を共にしている。


 これを見逃さない主戦派がいない訳が無いだろう。


 非武装の民間人を守りきるには、人が足りない。


 そして、任せられるほどの実力者を彼女(エリザ)以外、アルペジオは思いつかなかった。


「チハヤさんとの再会はどうするのですか?!」


『……悩ましいことを言うわね』 


 エリザの指摘に、アルペジオはつい先ほどまでの覚悟はどこへ行ったのか。


 まさかの躊躇を彼女は見せた。


 死んだと思っていた、されど生きていた人物だ。


 作戦が終わったら合流すると通信で話しているのに、それを反故するような行動を今からやろうというのだ。


 約束を半ば破る、負い目が無い訳ではないけれど。 


『彼と会いたいけどさ。それよりも、守るべき人命の方が大事よ』


 優先すべきはどっちかは、彼女にとっては愚問だった。


 それでもエリザは何かを言おうとして―――照準警報がけたたましく鳴り響く。


 敵部隊からの砲撃だ。


 クイックブーストを連発して―――


「―――!」


 アルペジオの《フランベルジュ》がエリザ機の左腕を掴み、振り回してブーストと同時に後方へと投げる。


『再会がちょっと伸びるだけよ。なに、簡単にはやられないわよ』


「アルペジオ!」


『ほら行った行った! こっちは任せなさい!』


 自分の乗機と同型のそれが振り返ると同時に敵部隊の火線が一層激しさを増していく。


 いくら《フランベルジュ》が速度と機動力に優れていても、これほど濃密な弾幕では近づけそうにない。


 エリザには彼女の言う事を聞いて下がるしか選択肢はなかった。


「……無事に、生還してください」


 苦し紛れにそう言ってエリザは《フランベルジュ》を振り返させ、ブースターを焚く。


『当然。……そっちは、頼んだわよ』


 やっと聞き分けてくれたと言わんばかりの優しい声が投げかけられて、


『―――さあ淑女の皆様喜びなさい! 私たちの愛する地獄よ!』


 アルペジオの指名した殿に向けて鼓舞する声が入る。


 チハヤも似たような事を言いそうだとコクピットを振り返った先。


 三六〇度見渡せる全天周モニターが映す背後に、赤と黒の機体が敵部隊へ突貫していく光景が見えた。


 彼女の実力ならば。


 チハヤが駆る《プライング》相手に張り合っていた彼女ならば切り抜けられるだろうか。


 そうなって欲しいと願いながらエリザは通信ボタンを押し込み、


「こちらラファール01! 聞こえてましたわね? 残存するラファール隊はこのまま後退するわよ!」


 先行して交代していた部隊員へ命令を下して、《フランベルジュ》を加速させた。






 ―――







 《ウォースパイト》がストラスールに到着して、数日が経過しました。


 外交団とアリアさん率いるストラスール講和派の会談はつつがなく進行し、一旦の方針が決定しました。


 ジェンハイ共和国外交団含む東部諸国外交団はストラスール首都、マニルカを占領するまでのしばらくは空港を要するラスペード市に事務所を構えオルレアン連合内で散らばる外交団たちと合流。


 各国民含む情報収集と保護を暫定的に初めていくそうです。


「―――皇国も同様だけど、それはイチカワたちに任せる方針」


 《ウォースパイト》艦内、ミーティングルーム。


 一際広い部屋の中。


 壁の一面、その七割を占める大きなモニターの前でホノカさんが言います。


「私とウー率いる外交団は《ウォースパイト》に残ってアリアに同行するわ」


「いやー、まさかの皇国専門外交交渉役からの大役です。まさに恐悦至極ですよ」


 会談で決まった、今後の動きについてのミーティングがミグラント主要メンバーとサイカさん達皇国外交官勢。


 それとジェンハイ共和国のウーさんとアリアさん達を招いて行われてました。


「わかってるとは思うけど、表向きミグラントは雇われ部隊。だけどポロト皇国の政治的思惑の下で活動する部隊よ。各行動を速やかに行うにはこの方がいい、というのは帝国の件から変わらないわ」


 生憎私は帝国の件は話しか知りませんが。


 そんなちゃちゃを入れることなく、話を黙って聞きます。


 ホノカさんの言う通り、ミグラントは傭兵でもクライアントでもあるポロト皇国の政治的思惑の手駒です。


 今回は防衛戦争の被害請求ではなく、外交官を引き連れての外交ルートの再構築と調査ですが。


 ともあれ、最終的な決定権は皇国―――女皇の妹にしてその代理人でもあるホノカさんにあります。


 傭兵としてストラスール講和派の依頼という作戦に従事する関係上、その行動は皇国に利益がなければなりません。


 その判断を下せる人物が艦内にいるだけでも意思決定の速度は速くなる。


 つまりは依頼を受ける決断までの速度が速くなるということです。


 離れていては通信で顔色を伺うという時間を取られるわけですから、むしろこの方が良いでしょう。


「では、これからの計画についてお話出来る範囲でお教えしましょう」


 サイカさんの前置きが終わるのに合わせてアリアさんが口を開きます。


 まずは軟禁されていたアリアさんの無事と置かれていた状況を暴露し、その上で主戦派が弾圧するデモの情報を流し、国民にどのような未来を望むのかを問い掛ける。


 そして自身がどちら側なのかを表明し、主戦派を排除して首都マニルカに帰還し、つい最近大統領が変わったヴィレント共和国と足並みを揃えて帝国との停戦交渉に臨む。


 それが大まかなアリアさんのプランでした。


 ヴィレント共和国。


 異世界のものが降ってくる黒い球体―――ノーシアフォールの消失後に選挙があって大統領が反戦派の人物に変わったというオルレアン連合五大国の一つ。


 つまりは、かの国の民は戦争に反対する側を選んだという意味でもあります。


 事前に聞いている話の通りです。 


 その国内情勢はどうやら安定しているようで、連合の外と連絡が取れない以外はストラスールと比べて平穏。


 ただ、混乱の只中なストラスールに戦争継続を掲げる残り三国の影響と圧力で肩身が狭く、発言権がそう高くないのが実情だとか。


 かの国―――ひいてはランツフート帝国やポロト皇国と連携を取るには、ストラスール議会を占領する主戦派を排除し、講和派多数にする必要があります。


 そして内政干渉とされない為に、主戦派の排除は自国内勢力で行うしかありません。


「できるの?」


「その為に準備をしてきたのです。首都マニルカに戻る為に、ね?」


 首都マニルカ奪還という作戦で参戦する部隊と配置はまだ秘密だとした上で、アリアさんは言います。


「まずはアルペジオ達がいるノールに寄ってから、ルアンという首都に近い、穏健派勢力側の都市に向かいます」


 そこから首都へ強襲を掛け、主戦派を拘束し政府中枢を奪還する。


 大雑把ではありますが、それが大まかな流れです。


「―――どこかで聞いた話ね」


 シオンの言うそれは話に聞く帝国での戦いの事でしょう。


 私も聞いてはいますが―――確かに大体は一緒です。


 土地の広大さ以外は。


「きっと私達はそういう星の下にいるんですよ。―――ほら、泣いて詫びる損害を出す為に民間人の乗った鉄道壊したり発電施設壊したりするよりは真っ当でしょう?」


「比較する内容がオカシイのよ。なんでテロも同然なのよ」


「傭兵の仕事なんて正規兵が出来ないような汚れ仕事か単騎で損な役割の仕事と相場は決まってます」


「偏見しかない前者はともかく後者は否定できないからやめなさい」


『二人とも。私語は控えてください』


 シオンと言い合ってたらHALに怒られました。


 元はと言えばシオンの茶々なのですが、乗っかった私も悪いと言えば悪いので。


 アリアさんからすればそんな光景は微笑ましいのか口元を手で隠して笑っています。


「流石にあの人(フラン)の関係者でもあるあなたにそんな依頼はしませんよ。フランに怒られてしまいます」


 怒るだけで済むとは到底思えませんが。


「―――あなた達ミグラントには私の座乗艦となる《ル・シーニュ》の護衛を近衛と共にお願いします」


 しばらくの予定が言い渡されました。


 余所者とはいえ、その内約はそうでもありません。


 主戦力たるリンクスのパイロットは元ストラスール軍人、もとい連合軍脱走兵ですから身元はよく知れていますし、その雇い主兼支援者は思惑があったとしても友好的な国家であり信頼できるものでもあります。


 その上、相応の実力もあるとなれば直掩として選ばない訳にも行かないでしょう。


「サイカさん?」


「もちろん、それは事前に聞いてたしこちらの目的の達成も見込める。皇国として了承してるわ」


 フィオナの確認にサイカさんは頷きます。


 皇国としては突如切断された対連合の外交ルートの再構築が目的の一つです。


 それが叶えうるミグラントへの依頼ならば引き受けさせない理由はありません。


 確認が取れてしまえばあとは簡単です。


「了解しました。独立傭兵部隊ミグラントはその依頼を引き受けます」


 ミグラントの長でもあるフィオナさんの了承で方針が決まりました。


 あとはそれに向けて動くだけです。


 さあ、ここから本題だ―――と。


 アリアさんが口を開きかけたタイミングでした。


 ピピッ、と。


 セントリーロボットから気が抜けるような電子音が流れました。

 

『《ル・シーニュ》、コトネより緊急通信です。繋ぎます』


 HALに視線が集まると同時に、合成音声が事態を告げます。


 待機しているコトネからの緊急通信。


『―――聞こえてる?』


 有事に備えていたのでしょうけれど、会議を妨げるタイミングのでの通信となれば余程の事態でしょう。


 感情を捉えずらい、淡々とした彼女の声がセントリーロボットを介してミーティングルームに流れますが―――それでも焦りを感じる声音です。


「コトネさん。どうかされましたか?」


 彼女らしくない声音にアリアさんもどこか気を引き締めたような態度で応じます。


 何が告げられても受け止める為にでしょう。


 何事、という空気もある中でコトネは単刀直入に言います。


『ノールで発生してる難民とそこにいた穏健派の脱出支援してるラファール中隊から緊急通信が入ったの。―――クナモリアルとソルノープル法国の部隊が突如乱入して敗走した。今追撃を受けてるって』



 

 

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