↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第六章]オルレアン連合総合軍事演習
102/490

公開演習、三日目③



『S(シエラ)1音響検知。十時半の方角。距離500』


 待っていた報告。


「レーダーをアクティブ! 一気に仕留めます」


 チハヤはそう言ってペダルを踏み込む。


 《linksシステム》の思考読み込みとアナログな操作の擦り合わせが一瞬で行われ、ブースターからプラズマが一気に噴き出す。


 《プライング》は文字通り、その場で真上に急上昇。十五メートル前後の建物より上に飛び出した。

 すぐさま、チハヤはモニター越しの石造りの市街地を見渡して、正面から右に60度の方角、音響S1へと機体を向けて最大速で飛ばす。


 眼下の景色が一瞬で後ろへと流れる。視界の片隅にある速度計は時速1000キロメートルへと表示されていた。


 レーダーの情報が脳に直接投影される。三つの赤点が表示され、地図上にも現れる。


 その三点の内、一番近い点へと《プライング》の現在位置が急接近していく。


 その敵がいる道路へと差し掛かり、クイックブーストで急制動。


 左前方、300から400ぐらいの距離に、道路上にそれはいた。


『敵機確認。《アーバイン》二機、及び《ミカエル》です』


 《ヒビキ》の言う通り、ゴーグルタイプの頭部に角型のブレードアンテナ。避弾経始を考慮した湾曲した面と傾斜が混ぜられ、大腿部が肥大化しているという独特のシルエットをもつリンクスがいた。《セラフ騎士団》仕様の《アーバイン》だ。

 二機とも装備はアサルトライフルと思える銃に、接近戦用のブレード。左肩にはシールドを懸架していて左手はフリーの状態だ。


 もう一機は所々に金の装飾が施された白い機体。平面よりも曲面の多い装甲と羽をあしらったような装甲が各所に。全体的なシルエットはスマート。ツインアイ方式。頭部にはループ状のアンテナ。

 背部には翼状のユニットが。そこには片側三枚、両翼合わせて計六枚の薄いナイフのような板が生えている。

 シールドはやや小型で厚い。その上部にはブレードのグリップ部が覗いていた。

 間違いなく《ミカエル》だ。


 敵小隊の左右は建物に阻まれて、避ける隙はない。100メートルぐらい下がればリンクスが通れるほどの道路へ出るが。そうすれば建物を遮蔽物にすることが出来るだろう。


 それを狙ってか、二機はこちらに正面を向けたまま後退を始めた。《アーバイン》は左肩を前にして盾を正面に。《ミカエル》は左手の盾を正面に。ライフルの砲口がこちらへと向けられる。


 最後尾の《アーバイン》と《ミカエル》が後退を始めて、前列の《アーバイン》が突貫してきた。


『S1改めA(アルファ)1―――』


「すぐ消える機体です。呼称は不要で」


『了解』


 そんなやり取りをして、コクピット内にアラートが鳴り響く。


 躊躇いなく右へクイックブースト。建物より高く飛んでいるからこそ、ぶつかる心配はないからだ。


 ペダルを踏み込み、一気に加速して下がる最後尾(・・・)の《アーバイン》を追い掛ける。


 《プライング》のスピードは、平均的なリンクスを遥かに上回る。後退しているとはいえ、それなりの速度を出しているはずの《アーバイン》と《ミカエル》がみるみると近づいていく。


 二機からの牽制の射撃。


 狙いは甘いのだから左右へのクイックブーストで避けれる。


 数回の左右へのフェイントを織り交ぜて、あっさりと追い付く。


 《アーバイン》の頭上でクイックターン。背後を取るべく後ろへ向けてクイックブースト。


 《アーバイン》と《ミカエル》もそれに合わせて反時計回りに回って《プライング》を視界内に収めようとする。


 ―――《プライング》は更にクイックブーストで急制動。クイックターンと後ろへのクイックブーストで下がる。


 早すぎる機動であっさりと背後を取った。


 《プライング》の両手のライフルが二発ずつ放たれ、《アーバイン》の後頭部と背中を毒々しい赤のペイント弾で汚す。


 誰がどうみても撃破判定。《アーバイン》は膝をついて機能を停止する。


『一機 《撃破》。残り二機です』


 《ヒビキ》の言葉を聞きつつ、《プライング》を左へクイックブースト。その道路から隣の道路へ。


 反転して着地。道路を東へ進む。


 チハヤはレーダーを確認。接近する二機の反応を見やる。


 流石に動体反応しか捕らえられないので、どっちがどっちかわからないが、追い掛けてくる反応が一機。


 ブースト全開で電磁波を垂れ流しである。そんなことすれば向こうにも居場所はバレてしまうだろう。


 次の交差点を右。その次は左へ。三つ先の交差点を右へ。4つ先の交差点は左でその次は左。


 ライフルを構え、横に滑り出ながら前へクイックブースト。


 レーダーで敵機が道路上にいないのはわかってはいるが、用心に越したことはない。


 レーダー上では10時の方角、600メートルの辺りに一機。追いかけてきた機体らしい。


 建物より上に飛び出して、その反応へ一気に接近する。


 遠くに白い機体が見えた。背中の翼状のブースターユニットから《ミカエル》だろう。


 チハヤはレーダーと照らし合わせてそれが狙いの機体ではない事を確認する。


『照準警報』


 《ヒビキ》の警告。


 《ミカエル》のライフルの砲口が発光する。


 チハヤは右へクイックブースト。


 放たれたペイント弾を回避。


 立て続きにセミオートで撃たれるが距離が遠い。避けるのは簡単だ。


 《プライング》はすぐに建物より下へ、つまりは着地して道路をブースト機動で滑る。


 そこは広い交差点だった。リンクスが動き回るには十分な広さがある。ブレードの打ち合いが出来てもおかしくはない。


『接近警報。10時』


 《ヒビキ》の警告。


 建物の影から《アーバイン》が飛び出してきた。右手には接近戦用のブレード。もちろん刃の入っていない訓練用だが。


 この距離ならリンクス戦においてはブレードの方がいい。不意討ちに近いのだから回避は間に合わない。


 普通の機体なら。


 そして、予測していればは動けるのである。


 後ろへクイックブーストして回避。ブレードは《プライング》がいたであろう空間を通り過ぎる。

 更に右へのクイックブーストで移動のベクトルをねじ曲げ、《アーバイン》を半時計回りに回る。


 リンクス戦では近すぎる距離でかき消えるようなクイックブースト。


 相手が《プライング》を見失うのは当然だった。


 両手のライフルが敵機に向けられ、FCSはロックオンしたことをチハヤに教える。

 

 《プライング》の反撃のライフルの火が吹いた。フルオートで、《アーバイン》の周囲を回りながらだ。


 放たれたペイント弾は、立ち尽くした《アーバイン》の全身を赤く染め上げる。


 言うまでもなく、撃破判定だ。


 撃破した《アーバイン》を背にそのまま《プライング》は進んで《ミカエル》の反応から遠ざかる。


「《ヒビキ》。レーダーを切って。このまま離脱します」


『了解です』


 レーダーの赤点の表示が消えて、相手の位置がわからなくなる。


 《プライング》は反転して、《ミカエル》がいるであろう方角を見る。建物が密集しているのもあってその荘厳な姿は視認できない。


 次の交差点。今度は右へ曲がる。進行方向は東へ戻る。


『チハヤ……。やり過ぎよ……』


 呻くようなアルペジオの声がコクピットに届いた。


「手加減したら相手に失礼でしょう?」


 それに、向こうはこちらの交戦記録の映像を見ているようですしと付け加える。

 手を抜いたら、それはそれでバレてしまうだろう。


『あー。そういえばそうね……。だからって遠慮なくやり過ぎよ。特に二機目の《アーバイン》のパイロットが可哀想だわ』


「私が洗う訳ではないので」


 そう答えて、次の交差点を左。北へ。


 マガジンの残弾を確認する。どちらも残り数発。次、交戦するときには足りないだろう。

 そう判断して、今刺さっているマガジンを排出。脇下のサブアームで後腰部に付いている新しいマガジンに交換する。

 残りのマガジンはこれで二つずつだ。


「そうそう、アルペジオ。オペレーター越しにクラリス殿下に伝言は可能ですか?」


 ふと、思っていた事を訊ねる。


『出来るといえば出来るわよ。どうして?』


「これで一対一(サシ)でやれると伝えたいだけです。クラリス殿下、一対一でやりたがっていたので」


 そう言って一昨日の事を思い出す。


 お伴がクラリス殿下一人で戦わせないと言って無理に三対一にしたからだ。

 それが決まってしまった時のクラリス殿下の乗り気ではなさそうな、不満げな表情もチハヤは覚えている。


『ああ、なるほどね。わかったわ。伝言の内容は?』


 それを見ていたアルペジオは納得して了承する。


「しがない邪魔者若干二名は排除させて頂きました、と」


『…………挑発的ね……』


 ため息まじりに呟いて通信が切れる。


 そしてすぐに。


『チハヤ。向こうからも返事よ。「上等よ」ですって』


 返事が返ってきた。


「それは良かった」


 そう答えて、コクピットにアラートが鳴り響く。


『八時の方角、機影を確認。《ミカエル》です』


 《ヒビキ》の言う方角を見る。


 その名の通り、天使のようなシルエットのリンクスが市街地の上空を浮かんでいた。


 進行方向はそのままに、そちらに《プライング》を振り返らせる。


「一旦通信切りますね?」


『了解。失礼の無いようにね。狙撃と不意打ちはご法度よ』


 アルペジオに釘を刺されて、チハヤは乾いた笑い声を上げる。


「それでは、天使様とダンスするとしましょうか」


 チハヤはそう言って、ペダルを踏み込んだ。


 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。